モーメントの髪の毛は
モノクロでできている
黒と白のコントラスト
光があたると綺麗だ

モーメントは人でない
人でないモーメントと
人である私は
いつの頃からか、この屋敷にすんでいる

とても密かに
とても注意深く。

モーメントは良くぬぐってくださいという
雨の日に、ふと気づくと傍にいて、
モノクロームの瞳で、
よくぬぐってくださいという

私はモーメントを拭うため
ここにいるのかもしれない

雨の滴り落ちる、モーメントの髪の毛を
乾いたタオルでぬぐうとき
その微かで奇妙な幸福感

モーメントの体は、すぐにぱさぱさになる
モーメントは拭われながら、かすかに嗚咽をあげる
彼はぬれることが、大変苦手で
痛みを伴う、モーメントが愛しくて、たまらなくなる

モーメントの居る屋敷は
いつも雨が降っているような
そんなかび臭さで満ちている
たとえば床
たとえば寝床
モーメントはすやすやとねむりながら
甘ったるいカビの匂いに少し咳き込む

私は雨を降らすために
ここにいるのかもしれない

雨を降らすときは、
モーメントが下に居ることをよく確認する
丁寧に一から十まで確認したら
(指差し確認だ)
水銀の如雨露でいきおいよく、
モーメントの体に水を吹きかける
水銀がきらきら、
きらきら

モーメントは悲鳴をあげて逃げ惑う
それを哀れに思ってやめてはいけない
モーメントに哀れなんて感情は似合わないのだから

モーメントをいじめるために、私はここにいる

如雨露でどこまでも追いかける
モーメントが泣きながら逃げるたび
水がはねて、体にちりばむ
じっとりと汗ばんでいく手のひらの
その中までしみとおった水銀の重さ

やっと水が一滴残らず落ちてしまえば、
乾いたタオルと蜂蜜を用意して、
モーメントを待つ。
モーメントは涙もかれたという顔で、
傍に来て、ぬぐってくださいという
私は微笑んでぬぐう

ぬぐいながら、静かで奇妙な幸福感に酔いしれる

ある日モーメントは私に
僕に水をかけるのもあきたでしょう
といった

切符をあげますから、もうここにこないように、
切符をあげますから、
汽車で旅発ってもいいのですよ

  この暗い寂れた牢獄のような屋敷
  ここにずっと ふたりで いるものと思っていた
  切符は金色でキラキラ光っていた

モーメントの手のひらで小さな切符はぷるぷるゆれる

ええ、貴方は私が出て行っても平気なのですか

モーメントは泣きそうな顔をする
水もかけていないのに

私はすぐ分かった
モーメントが、私をずっと傍においておきたくて
そんなことを言っているのだと
すぐわかった

人の心理は微妙で
そしてモーメントもまた微妙なのだ

いるという確定がほしくて
そんなことはすぐわかる

私はどうしても聞きたくて

モーメント、私がいなくなったら貴方はどうするんですか

朽ちます

朽ちるのですか

だめです、やっぱり出て行かないで下さい

モーメントはとうとう泣き出した

今のは嘘です
切符なんかありません、
なにもありません、
出て行かないで下さい
貴方が出て行ったら
朽ちてしまいます

おあおあ

モーメントの鳴き声は、子猫ににてる

モーメント、モーメント
モーメントの涙は甘い
水のようにかろやかだ
それを舌ですくいながら
きつくきつく抱きしめた

きつくきつく抱きしめた

いつかモーメント、
あなたのために雨を降らせるのを
やめる日が来るかもしれない
私のために、あなたを愛する
その日がいつか、くるかもしれない

気づいても
気づかなくても

それまでも
これからも

ずっとずっと
そばにいるから
(シリーズ: noSeries )
2004-11-11 17:02:37