〜・・・Return Hitogorosi・・・〜
没文・彼女ちゃん
第一章
ひどいことを覚えている体

都会に降り立つと、僕は小さく震えて
羽をしまった。
羽は人には見えないから、出していてもいいのだけど。

空気に慣れたら歩き出そうと思って
僕はゆっくり空気を吸った。
埃と怠惰と堕落の匂い。

僕はゆっくり歩き出した。
早く4人を見つけ出して、
与えなければならない。
奪わなければならない。

■■■

路地裏には一人の少女がいた。
うずくまっている。
「なにしてるの?」
声をかけるとびくっと少女はふるえて、
おびえたように僕を見た。
「あ、怖がらないで」
言ったとたん、少女が駆け出す。
「待って!」

【分岐】
追わない 友UP
追う 怒UP


>>追わない
●スイッチオン
僕は声だけかけて少女を追わなかった。
追いかければ彼女はなおさら逃げていってしまうだろう。
僕はとろとろと、力を抜いて
彼女が見ていたものを見た。
小さな貝のかけらがきちんと並べて置いてある。
「遊んでたのかな?」
ぽんやりと言って貝をひとつ、手に取った。

>>追う
「待って」
「きゃーーーーーーー」
腕をつかんだとたん、
火がついたように少女が叫んだ。
「あわわっ」
「いやーーーーーーーーーーーーーーっ」
「ごめんっ、ごめん、許して!叫ばないで!!!」
手を放すと、はじけ飛ぶように少女はまた駆け出した。
今度は僕も追わなかった。

■■■

ふと気がつくと、少女がいた。
たたずんでいる僕の向こう側で
路地裏からこっちをじっと見ている。
僕はにこっと少女に微笑んだ。

>>スイッチオン
ポケットから拾った貝を出すと、
路地にきれいに並べて置いた。

>>オフ
近づこうとして
何かが足にあたった。
見たらきれいな貝が数個、路地に並べて置いてあった。

顔を上げたとき、少女はもういなかった。

■■■

いるかな、と思っていったらやっぱり少女はいた。
暗い路地裏で、貝を並べてかたかたと遊んでいる。
金色の埃が光の中を舞い、
ふわふわと少女に纏わりつく。
貝の白さが救いのように、煌いている。
そっと、驚かさないように僕は近づいた。
少女はちらりと僕を見ただけで
また視線を下に落とした。
沈黙だけが世界を支配していた。
僕にはやさしい沈黙だった。
「なに・・・してるの?」
「・・・・貝で遊んでるんです」
もっともの答えだったので
僕はなんとも言えなくなってしまった。
困っている僕を見あげて、少女はちょっと涙ぐんだ。
「ごめんなさい」
「・・・え、なんで、別にいいよ」
「・・・あなたは襲いませんか?」
「え?」
びっくりして僕は問い返す、
何を言われたのか良くわからなかった。
「襲ったりしませんか?」
「し・しないよ!」
「・・・・・」
少女は首を振って、
小さな貝を拾い上げた。
ぱきり・・・と音がして貝が少女の手のひらの中で砕ける。
「・・・・さようなら!」
突然叫んで少女が立ち上がった。
僕は驚いて、のけぞった。
「さようなら」
「・・・まって!明日もくる!?」
「・・・・わかりません」
泣きそうな声で少女が言う。
そして走っていってしまう。
とた、とた、とた、と早足の音が路地に響いた。
僕はさびしい気持ちで少女が去った後を見ていた。

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