人間失格 I love you

川べりの暗い空の中で
ゆっくり、雲が動いていた
くものきれま、きれまに
明るい星が見えて
ひどい寒さに思えた


くもでうすまった空の青
くもがとぎれたら
深い、青
まるで
足場がないほど
すきとおりすぎて
その なにもさえぎることができない
寒さに
すこしだけ
痛かった


なんとなく
まくろい柵にこしかけて
野菊のそばで
たばこをくゆらせていたら
なにか、足が蜘蛛足の女が来て
ざわざわと
「ちょっと
 おたずねします
 人間失格はどこにいますか」
という

その、まくろい、毛だけの足
へびのような
まくろい体に
何本もある足が
うぞうぞとうごき
女の髪はうつくしく長い

その目がらんらんと輝きにみちていたので
ああ、困ったなぁとおもいながら
「人間失格とは何ですか」ときいた

なぜかというと、
さんせいとうひょうであれば
自分こそが、
人間失格になってしまう

そしたら蜘蛛めいた
ざわざわした方は
 「ええ ひとをひととおもえない人間です」
と、いう

 ひとをひとと、思えないひと?

それで、また
困ったなぁ、と思う
「他の人間は 他の、人間だ」
そんなふうに
感じることができない人は
たくさん たくさんいる
それをおしえたら
さきに私が、食われてしまう

なぜなら、私も
ひとをひととおもえない時が
あったし、あるから


 そうだ、思えないのではない
 他の人間を 他の人間だと
 あのひとらは
 感じられないんだ

 人間をかんじる のは
 あたま じゃ ない


それで、ふ、ときづいて
「あれ それで
 あなたは 人間合格ですか
 それとも
 失格ですか」
そうきいたら
蜘蛛の人は笑いながら
私は人でないもの
という
だから
「ああ、では あなたではないですか」と
いったら、
蜘蛛の人はぎょっとしたように
自分を見た

 ひとを ひととおもえないのは
 あなたではないですか

たばこの煙はくゆり
くゆり、ながれ
空の方にながれて
うすく、消えていく

蜘蛛の人は私を見ている
私は、蜘蛛の人の目が
やたらにすんだ きれいなきれいな
青紫で
それが、空のようだと思う
あるいは
透明なインク
それをすくって
小さなガラス瓶に入れたような、目だ

にんげんをさばくのは
にんげんでなければならないのでしょうか
にんげんをさばくのは
にんげんをこえたものでしょうか

わかりません
でも ひとを
ひとのありようを
さいばんする人は いつも
ひとでないです

 ひとを こえたきに なっています

そういったら
きゅうに、はじけたように
蜘蛛の人はわらい
わらいながら
私の頭を一度だけなでて
ごきげんよう、と
去っていった

私も、だから
つぶやいた

 ごきげんよう

あなたが しあわせで ありますように



 ひとのなかで ひとになる
 いやだって いいだって
 
  にんげんのなかで にんげんはそだつ
 
 だから この世が いとしい


 わらいましょう


川べりの赤い花が
ひとつ、ぼっと、咲いた
花が咲くのを見たのは
はじめてだったから、
どうにも、うれしかった
2011-12-17 15:59:33