階段の怪

(怪談小話シリーズ)

…夏海がおきると
パジャマが重いほど
汗ばんでいた

寝苦しいほどではないのに
もう、こんなに
寝汗をかくほどの季節になったのかと
夏海は枕元においておいたリモコンで、
クーラーのスイッチを入れる

ーーすこし部屋をさましておこう

ベッドから起き上がると
下の部屋にタオルと着替えをとりにむかう
廊下にでると
隣のへやからドア越しに
ふたりきりの姉妹の
ごうかいなイビキがきこえる

ーーおねーちゃんはいいなぁ
いつものんきでさ

夏海だって
なにかに悩んでいるわけでもないのに
汗ばみの気持ち悪さと
寝起きの苛立ちから
ぶつぶつ口のなかにもんくがでる

ーーまったくもう

階段に足をかけた瞬間
夏海はすべりおちた
汗で足をふみはずしたのだ
すざまじい衝撃が背中にはしる
痛みに呼吸がとまり
目がかってにつむりこんだ

ーーい、た……

ーーおねーちゃん……

助けを求めるように
今の音を聞いて
姉が目覚め、とびだしてこないか
気配をさぐる

姉のイビキが
階段の上からきこえる
もうひとつ、なにかの気配が
天井からする

ーーあれ、そういえば
まったく、おとが
しなかった……

痛みを気遣うように
そろそろと目をあけると
真っ白な顔に
あかい唇をうかせた女が
天井にへばりついて
夏海をみおろしていた

頚がおかしな形で曲がっていて
唇をゆがませ
そこから空気を漏らすように、わらいかけて
きえていった