地獄

(怪談小話シリーズ)

みえないものより
人間のほうが怖いって
しわしわになった
自称四十七才の婆さんは言う

駅でタバコをふかしていたら
なんやら重いにもつをとなりにおいて
ひとつひとつ
ポツリポツリとはなされた

最初あたしにいってんのかと思った

遠い目をして
なにかを思い出しながら
噛むように
はなしてる

借金な、借金は
せんほうがええ
あたりまえだども
かえさんとならん
借金するほど
金稼げなかったのに
かえせるわけもない

足すことのできるひとなら
借金にはならんが
引くことしかできんのに
してしまった

……

婆さんの目は
青い青い目をしていた
外国のかたなんだろか
背中にーーあたしそういうの
見えてしまうんだけどーー
赤い狸がゆっくり揺れていて
奇妙なかおしてわらってる

最初は男を相手にした
体をつかって
男をとった
あんのヤクザは優しかった
誰より優しかった
なんでだろうな
わかってくれたんよ

ヤクザがあたしの力に目をつけた

おまえはカリスマがある
なにやら見えないもんもみとる
それでひとつ、かせがないか

……

やりはじめたの
いわゆる
集団で拝み屋……
新興宗教なんてもう古い
もうからないってさ

盛りあがってるように
みせつけるのは
ひとりふたりでいいんよ

ヤクザがひろいあつめてきて
クリーンにして
着飾りあげた娘たち

わたしは場末
盛り上げ係けん、おこぼれ係

お金かけて
着飾らせてもらえる娘は
ひとりふたり

まるで昔の花魁だねぇ

きっきっきっと
婆さんは笑う

借金、あるからねぇ

ギリギリの生活費だけあたえられて
あと、とられて

……

ひとりでも
ふたりでも
客がくれば
ーー引っかかってくれれば
それでええんよ

それだけでええ

着飾り娘さんは高め
それから少しずつ下がって
場末は低めのお値段

どこかで
引っかかってくれれば
いいんよ

……

見えないもんより
人間のほうがこわい

……

いまおもえば
ヤクザのほうが
ものをわかっていたんだろうね

病になって
看板を支えられなくなった
わたしを
かれらはなんだか知れない儀式に連れていって

あたらしい着飾り娘さんと
裸になって
ねころんで

呪文となえられて

きがついたら

わたしねぇ、それが30のとき
あれから十七年
もう四十七才
でも、百の婆さんに思われる

……


青い青い山が
夏の日差しの下
しずかに熱されている
どこかで
セミがないてる

暑いな、と、おもう
なのに、鳥肌がたっていた

……

わたしは
もうすぐ
しぬんだろうね
これは
つみつぐない

集団拝みの
つみつぐない
だまして、なかせた
せめてもの
つぐない


あんたぁ、借金は
しちゃぁ、ならないよ
あんたは
かえせない質だ
あたしには
わかるから

……え、と
声が出た

そこにはもう婆さんはいなかった
さっきまで
目にうっていたのに
腐りかけた木のベンチと
遠くまでつづく、山景色
合間をぬう、線路……

セミの声が
うるさいぐらいに
ふりそそいでくる

頭をふって
たちあがる
夢でもみていたのか
でも、生々しすぎる

顔をあげたら
暗い声が上からふった

……そうだよ、ここで、しんだんだ、しじゅうななだった……