空から甘い風が吹いているようだった
花粉の季節です、と
テレビがはなしてる
花粉の予防には……

ならこれは
花粉の香りなのかなぁと思う
ほんのりあまく
おもく、あたたかい

バスケットに入れた
サンドイッチが
崩れていないか
少し気になる
水筒にいれてきたお茶も
ちゃんとよくいれられただろうか

なによりカバンの奥にしまいこんだ
旧型デジカメが
壊れていないか……

急に行くことになった
小山へのとざんは
疲れるかもしれない
遭難なんかは
決してないだろうけれど
明日も仕事なのに
差し支えないだろうか

春先は妙に細かいことに不安がつのる
こんなのも花粉のせいで
花粉症のひとつなんだろうか
馬鹿なことを考えて
あたまをひとつふる

花粉は頭にはこないんじゃないかな

ふと、みあげたら
ももいろのやわかい花が、
ぼってりと咲き誇っていた

無意識に鼻をすませる
耳を澄ますように
鼻に集中している
花粉の香り、
やはり
空中のは杉が多いんだろう
そうしたら
こうした木々とは
違うかもしれない

じっと、鼻に集中したけれど
鈍い鼻ではよくわからなかった
ほんのわずか
桃色な気がしただけ

気がついたら
花のあいまに
まぎれるように
白毛の猿が
逆さ吊りになって
赤い顔をこちらに向けていた

――真顔だ

妙なことを思う

猿でも真顔ってあるんだなぁ

思いながらぼおっと猿と目を合わせ続ける
そうするうちに
きみょうなことに気がつく
遠近感とでもいうのだろうか

少し離れた先の花にくらべ
猿だけが異様におおきい
細かく咲く花は
赤子の指のように小さいのに
その合間に顔を咲かせた猿は
人の顔より大きく見える

「すこしおたずねするが」

猿がしゃべる

驚くべきなのに
妙に頭がさえてしまい
なんだか普通のことのような気がする

「はいなんでしょう」

つい、こたえてしまう

――奇妙なものにであったら
はなしかけられても
なにかを食べさせようとしてきても
こたえないでくださいね
返えしたら、あちらに
はんかけ、ふみこんでしまう

そう言ってくれたのは
誰だったか
ああ、こたえてしまった、と思う

私の心のさざなみに
気づいた素振りもなく
猿はつづける

「ここらへんにね
サイギノオ ハテシリ ゆうひとは
おりませんかね
住処ですね
探してるんですや」

サイギノオ……?

「さあ知りません」

なまえを繰り返しながら
不思議な音だと思う

なんとなく神社が頭に思い浮かんだ

「あ、そこです」

会話がかみあわない
しかし、猿は嬉しそうに
にっかりわらう

「ありがとう、
お礼に、そうですね
あなたはアヤカシバカシ
マカシヤに
怯えておられるようだ、
そうしたものに
惑わないように
しておきましょうね」

ぶ、と
音がして
気がつくと地面にひざまづいていた
どうも強烈な、貧血のようで
腰がくだけてる

……

しばらくしたら
貧血はさって
立ち上がろとしたら
携帯がジリリリ音を立てて
あわててでたら
花見、あんた、どこいるの?
と、取り乱した
友の声

あんなに晴れやかで
明るかった空は、すっかり
夜空に変わっている……

……

後日

話をかえさないこと
そんな変なことを教えてくれたのは
図書館のメガネをかけた真面目くんだった
あった途端に思い出して
ついでに、猿のことも思い出して
聞いてみた

聞いたことないですね

真面目くんは答える

でもたぶん、悪いもんじゃないですね
あと、たぶんですが

あなたも同類だと思われたんでしょうね

おなじところにいるもんだから

そうして、すこし
ほんのり笑ってた
(シリーズ: noSeries )
2018-03-13 15:35:01