ミルクの森

昔々あるところに、
ミルクでできた王さまが居ました
おうさまは体も何もかもがミルクでした

ただ体を保つために気合を入れて生きていました

ある日、王さまは道端で転んでしまいました

家臣たちがみんなで守っていたのに、
王さまの目の前の石から王さまが転ぶことを
誰も止められませんでした

ミルクでできた王さまは道端にすってんころりんと
ぶつかった拍子にバシャアンとはじけてしまいました

道端にミルクの水たまりができて空の青が白い上にうつってすらすら流れていました
何かおいしそうでした


家臣のひとりが「あ、あの」といいながら
近づいても
王さまはもう何も言いません

どうも転んだ拍子に気合も転んでどっかにいってしまったようで、
ただ道端にしっとりひろがっているのは
もう単なるミルクのみずたまりに思えました


家臣が「だいじょうぶですか」と聞きましたが
ミルクは無言です。

みな遠巻きに茫然と見ていましたが、
ちいさな白い可愛い子猫が
鈴なるような声でなきながら
王さま、いえ、ミルクに近づいて、
それをぺろりとなめたらどうもだいぶ美味しかったようで
ぺろぺろぺろぺろ舐めてしまいました

やがてたくさんの黒やぶちの猫がきて
ミルクの水たまりを全部なめてしまいました

あとにはかわいた道と茫然とした家臣たちが残っていましたが
誰も何も言えませんでした。


夜がきて月がのぼっても誰も何も言うことも、
動くこともできずにいました。
そうしてながいことたったようです。
家臣たちはやがて木になってしまって、
たくさんの木がなってしまって、
やがてそこらは深い森になり、
森の実りがよいので、
その森の下に町ができました。

町の人たちは森を「ミルクの森」と呼んでいます。
森の中の小さなくぼみには今でも白いミルクがわいているそうで、
猫を中心に小さな獣の憩いの場になっているようです。

おしまい
2011-09-02 20:25:05