きざみつける

ずいぶん暗い夜だった
きりきりした
なにか、妙な音が
空の上のほうに
流れていて
からんだり
ほぐれたりしている

そこいらは
真っ青に
すみとおり
まるで湖のようで
薄いところに
寒々しい細い月が
かかっていた

そこかしこかに
赤いバラが咲いていて
この寒さで
薔薇の花びらも
こごえるように
ひかひかしていた

赤い花びら
ちんとんしゃん


誰かが歌っている
誰に聞かせるでもなく
慰めのように

赤い花びら
きいらきら……



わたしは
寂しいようで
ふと、てをみたら
それは
なにかもろもろしたものでよごれ
ての汚れを
しみじみ
見つめてたら
なんだか
わびしい

刻み付けるように
手のひらを
見ていた

―― 誰に赤い花びら
ただ、ちんとんしゃん

啜り泣くような
歌声は
つづいて


月のはしに
赤いちらちらした
金魚が見えた
それは
ひっそりと
しずまりかえり
夜の寒さに
それでも
ちらちら
けんめいに泳ぎ
ふ、と

いたみきえれ と
思いました

頑張ってて
頑張っててないてた人が
いたんです
頑張って
頑張って

ただ、かけ違えたボタンのように
なにかがずれて
そんなふうに

ようやく
分かった

ふりかえれば
白いカエルが
岩の上にいて
静かな夜の
空を、見上げていた
月がゆっくり
てっぺんにうごくたび
カエルがふえて
何びきものカエルが
やがて、合唱をはじめる

誰かが
琴の音を弾くようで
びんばんびん
と、わずかに重い音
地に響いて
赤い花が
その音に響いて
ふかふかと、みをゆらす

私もうたった

星も瞬きながら
歌う
ちかちかしていた
みな、合唱のようだった

―― きざみつけるのに
なんにもいらない
みずからのしょうたいを
ただ、見据えればいい

月に向かって
うたは流れて
風が心地よさげに
すうすうと
地の上を
ながれていた
2011-12-27 21:40:09