いちごあめ

やわこい雨が
たんたんとふっていて
にごった
青緑色の池に
たんたんと
おちつづけている

あちらに蛙のかぶりものをした人が居て
そのTシャツに書かれた文字が
「べーすぼーる」だというのを
なんだか、かためで読みながら
紅い傘、黄色い靴で
池を見ていた

黄色、みどり、青ににごって
こけや、水藻のあいまに
おたまじゃくしが
すうすう 泳いでる

彼が私を見たので
目、そらさな、
そうおもって
目、そらしたら
つかつかと、近寄ってくる

なにか、なにもかも
どうとでもなれと
やけになっていて
逃げる気もなく
ただ、おたまじゃくしの数を
かぞえていたら

彼は
私のそばで急に立ち止まり
その、薬局の前にあるような
蛙のかおで
首をかしげる

目が、まんまるで
からだとは
まったくアンバランスな
蛙の顔をみながら
「なんだか、のんきだなぁ」と
思う

彼が手を差し出して
え、と思って
うけとったら
それは、赤い飴だった

ありがとう、と
つぶやいたら
彼はお面ごと
うん、うん と
うなづいて
うなづくたびに
わずかに湿ったおめんが
むにゃ、と
ゆがむ

ありがとう

くるくるあけて
さんかくで
あかももいろの飴を
くちにしたら
あまくて
すこし、なけてきた

泣いているのが
わからないように
してくれたのか
彼は、となりで
歌を歌っていた

ちゃんと歌を歌う姿勢で
しずかな、聞いたこともない歌を
うたっていた

池の中のおたまじゃくし
なんびきも
なんびきも

すいすい泳ぎ
雨が当たるたび
小さな波紋が
ぱたぱた、音をたて
なにもかも
私とは違うところで
必死に生きていて
それが自由で

愛しかった


かなしいわけじゃなかった
さみしさわけでも
なかった

ただ、泣けてきて
傘の隙間から
空を見上げたら
まっしろの
どこまでも、雲の海
わずかな切れまに
青い、深い空がみえ
その隙間から
太陽の光が
雲をいぬくように
ひかひかと、
さしこんでいる

ひかりと、雲が
だんだらになって
そこから、雨が落ちてきて

うつくしかった
2011-12-28 17:40:40