ひどく奇妙なもので
おおきなおおきな鐘の音が
ぐわん、ぐわんと鳴り響いている
どこから聞こえるのか、どうしてなっているのか
よくわからないが
あまりに響く音なので
あたまがぐらぐらする

夕陽が真っ赤なあとを残して
ゆっぐりしずんでいくのに
急に黒い雲がもうもうと湧いて
静かに雨が降ってきた

―― これはいけない

独り言を口で噛んで
それでも歩いていると
どんどん雨は多くなり
何の音もないのに
ただ水だけがひどく激しく流れる

おもぼったい服といい
水の中にでもいるような気になる

―― しかたないな

雨の中を散歩するのは好きではないけれど
宿るところもない

ぼおぼおと降りしきる水の中
あたりが溶け込んでいく
ぼやけた色を見つめながら歩いていると
しずかしずかに前から誰かが歩いてくる

それはなにか、
影のような巨大な人で
だし、だしだしと
しずかにしずかに
歩いてくる

―― やあ、よいあめですね

そういうと
その人はあきれたように私を見て

―― よいあめとは
 まだまだこれぐらいなものではない

そういう

―― これは幸先の良い雨ですね

そういえば
大きな人はまた大きくうなって笑いながら

―― 幸先 そんなものは鼻の先にしかない

そういう

―― 雨が上がれば、良い花も咲きましょう
 地の中に、たくさん良い雨がしみこみますもの

―― くくう くう

大きな人はぐふぐふと
なにがそんなにおかしいのか
身をよじって笑い
不意に何も言わなくなって
遠くの方に、その目を細める

どうされました、そう聞くと
おまえ、これをやろう
そういって、ひとつの白い野菊をくださる

―― 明日までに雨は晴れる

―― ありがたいことですね

その人の目の先を追ったら
けむる雨の中、やわらかな虹が
ゆっくりと光り輝いている
2012-01-19 17:01:47