こおり

耳の痛いような
まっくろいよぞら
寒くて手先がふるえる
さきに降った
まっしろい雪が
地面にどろどろのだまになってる

ちいさな学校のすみをとおったら
その校庭にひとがいて
それがおどっている

なにか異様に思える
その姿が、闇よりすこし
浮き出るようで
ひかひか、ひかり
ひかり

なんだろう、ねぇ、と
隣を歩いていた彼にきいたら
すこし笑いながらわたしをみて
その指先をたどり、
それから笑みがとまった

ゆび、やめろ
目、あわせるな、と叫んで
わたしの手を
ぎりっとにぎって
はやめの足で歩く
私がうしろふりかえると
みるな、とみじかくさけぶ

ようやくコンビニのあかりがみえて
彼は私と崩れ込むようにはいり
すこしあったまろう、いって
雑誌の棚にわたしとならぶ

しばらく
厳しいかおして
雑誌が並んだ棚のまえ
ただ、みているから
その横顔みつめていたら
ぽつりという

むかしな、
むかし、
別にふつうなんだけどな
ちょっと気弱い子おってな
そいつな
よく、おれらを笑わせろいわれて
おどってたん
おどって、な
あいつ、謝れ、いわれて
あやまったん
そんときな
あいつ、笑ってたん
わらいながら
なきながら
あやまった

コンビニに客は不思議なほどいない
ただ、しんとしたなか
店員もどこにいるのか
自販機かなにかの
機械音ばかりする

……わらいながら
許しをこうていた
……

ひとのいたみ
わかるようになるまで
わからんひとも
いるけれど
たぶん、ひとは
ながいこと
ながいこと、かかる

ながいこと、かかる

みえるだけ、
なんとなく、知っているだけ
はんのうが わかるだけ

わかるようになるまで
何年も、なんねんも、なんねんも
かかる

それだけの、話なんだけどな

それから、彼は黙りこんだ
急に客がはいってきて
ざわざわと、いらっしゃっいませ、と
店員もさけんで
あ、よかった、と
おもう

聞けなかったいろいろは
のみこんで、しこりになったけれど
彼も、私も何も言わないで
他愛のない、映画やケーキの話をして
その日はわかれた


いいや、わすれよう、わすれよう、と
おもった

それから何月もしないうちに
彼から別れようと言われた
理由は教えてくれなかった
2012-03-14 13:00:00