未来

赤い赤い月のはんぶんに
すわっていた鳥がねぼけて
かっこう、かか
かっこう、とないて
そのあと、
あ、まちがえた、と
おれはかっこうじゃない
じゃ、だれだっけ
そう、つぶやく

真夜中の公園
なにをおもったのか
おとこのひとと、
おんなのひとが
それぞれ
ぶらんこにすわり
話もなく
きいこ、ぎいこ、と
こぎ、ゆらいでいる

公園のまんなかにある
おおきな白い木に
青年がひとりよりかかり
涙を流している
声もなく、音もなく
ただ、木にしがみつくように
涙を流している

わるこさんは
ジョギングの足を早める
ほつれかけた
パンチパーマが
うごくたんびに
顔にかかり汗も目にしみるが
わるこさんの足は
とまらない

ほっちょいほっちょい
小声でつぶやきながら
たのしそうに
ジョギングというより
かたむいた小走りで
公園の、木としばふの花壇のまわりを
まわりつづける

げんきがよいてゃすね

声をかけられて
ふりむけば
ひとり、おじいさんが
ベンチにこしかけ
わるこさんを
見つめながら
ゆかいそうに
わらっている

彼の手は木の枝をにぎり
その前のじめんに
数と数式、
たくさんの数式が
かかれている

これはね
ぼくが発明した
タイムマシンの
数式なんです
こんど、特許庁に
持っていく予定です

すごいでしょう、と
おじいさんが笑う
わるこさんも
つられて笑う
すごいですね

タイムマシンができたら
あなた、まず
つれていってあげましょう

すこしかんがえてから
わるこさんはこたえる
むかしには
戻りたくない思いばかりで
未来にはいけるんですの?

……

むごんでおじいさんは
うなづいて、そのあと
すこし、思案してから

でも、
いまのあなたでは
未来からも
いやなことしか
みえないかも
しれないですよ……

ちょっと
おじいさんのことばは
きこえづらく
わからなかった
夜も冷えてきたので
わるこさんは
じゃ、そうですか
もういきますね
そう、こたえる

お元気で、わるこさん
いつか
またあえたらいいですね

あいまいな笑みを浮かべ
わるこさんは
はしりだす
ほっちょいほっちょい
ほっちょいほっちょい

家につくころ
どうして
わたしの名前を
あのひとは知っていたのかしら、と思い、
あ、と
きがつく

ジャージのすそ
若い頃の学校のジャージ
このみ わるこ
もうだいぶかすれているけれど
よめないこともない印字をみつけだし
すこしだけ、恥ずかしくなる


2012-05-08 22:24:49