いのち

いのち・0

●地上
空に雲が流れている。
ゆっくりと雲から地面へ。
緑の草に小さな蝶。
飛び立つ。
追うように映し、雲がアップになっていく。

●雲の中
薄紫の闇の中。声が響く。
神「おい、気をつけろ。丁寧にするんじゃ。
命を扱っていることを忘れるんじゃないぞ。」
天使「分かってますよ」
小声で
天使「もーうるさいなぁ」
くつくつ何かの音。
神と数人の天使の影が闇に映る。
その中にそっと手を伸ばす小さな影、
手のアップ。
ひっこむ。
そのあとはくつくつという音と天使、神のせわしなく動く影。
天使「あっ!!」
神「んーそこはもっと色を混ぜて・・・」
天使「命が一つない!!」
神「なんじゃとー!!!」






***
いのち・1

●神の森
ぴょんぴょんと森の巨木を飛びながら走るミッシェル。
ミッシェル「やったやった!」
最後に大きく飛び跳ねて、一本の木の前。
ミッシェル「母さん・・・!!」
ためらうように躊躇して。
ミッシェル「母さん・・起きてる?」
母「起きてるわよ・・・おまえ、大変なことをしてきたね」
ミッシェル「え!べ、別にしてないよ!!」
母「嘘をお言い、その手の中のハートはなんなの?」
ミッシェル「こ・・・これは・・・神様がくれたんだよ」
母「ミッシェル!!」
大きくゆりかぶる木。
ミッシェル「なんだい!あんなにあるんだからいいじゃん!」
母「ミッシェル・・・聞きなさい、
命という物は1つ1つ・・・ミッシェル!!」
ごっくんと命を飲み込むミッシェル。
ミッシェル「へっへーん!!」
きゅうきゅうと音。
ミッシェルの体が縮んでいく。
ミッシェル「!?!?へんっなんか変!!」
母「ミッシェル!!」
ミッシェル「きゃーーーー!!やだやだぁ!!!」
しゅぽんと消えるミッシェル。
ため息のように、母の木がざわめく。

***
いのち・2

●地上
鳥が空に動く。風が吹き、ジャングルの木々がゆれる。
1つの花。蝶のさなぎがゆれている。
ミッシェル「うっうん」
ぱしゅっとはじけるさなぎ。
よれよれの蝶。
ゆっくりさなぎから出て、羽を伸ばす。
ミッシェル「ああ・・・ここは・・・」
ミッシェル「なんて綺麗な世界だろう。
それにこの匂い!
すごいなぁ・・・僕、生まれたんだ。ふふぅ!」
羽を動かし、ひらひらと舞い遊ぶ蝶。
すぐに疲れて花に降りる。
ミッシェル「ぜぃぜぃ、なんだろう?
体がすごく重い・・・それに、すごくお腹の辺りがきゅうきゅうするよ」
カメレオン「それはおまえが生きているからだよ」
ミッシェル「きゃ!醜いなぁ!
あなただぁれ?」
すぐ側の木にカメレオン。
じっとミッシェルを見ている。
カメレオン「言ったね。なぁに、そのうちそんな口もたたけなくなるさ」
しゅっと舌を出し、ミッシェルを食べようとするカメレオン。
悲鳴をあげて飛び退くミッシェル。
ミッシェル「なにするんだ!」
カメレオン「おまえは美味しく食べられるのさ。
生きているのと当たり前なぐらいそれは当たり前なことなんだよ。」
シャッシャッと繰り出される舌。
必死で逃げるミッシェル。
ミッシェル「やめてよお!!怖いよお!!」
カメレオン「ほおらつかまえた」
あがくミッシェル。
ミッシェル「いやあああ!たすけてぇ!!たすけてぇえ!!」
近づくカメレオンの口。
赤い穴。
強い恐怖に震えるミッシェル。
ミッシェル「きゃああああああ!!」
セミ「おい、そこのでこぼこで腐った臭いの緑のあほんだら!」
カメレオン「なんだってぇええ!!!
それは私のことかい!!」
叫ぶカメレオン。
叫んだ拍子にミッシェルが逃げる。
ミッシェル「ひっひっ」
セミ「つかまって!!!」
いきなりミッシェルを抱きかかえると
凄まじい速さで逃げ出すセミ。
小さくなるカメレオン。
カメレオン「お待ち!!それは私の昼食だよ!!」
風と抱きしめられた痛みと恐怖でパニックになるミッシェル。
ミッシェル「いやああああ!!はなしてええええ!!!」
セミ「わっわっわっ
ちょっと暴れないで!!
大丈夫だから!!!」

***
いのち・3

●野原
花がゆれている。
蜂がぶんぶんと飛び回っている。
花の一部にミッシェルとセミ。
ミッシェル「ひっく・・・うっく・・・」
セミ「弱ったなぁ・・・もう泣きやんでよ、
もう怖くないから。ね」
ミッシェル「ひっひっお母さん・・・」
セミ「へぇ、君お母さんがいるの?すごいなぁ」
そっと顔をあげるミッシェル。
ミッシェル「お母さん・・いないの・・・?」
セミ「いるよ!いるけどさぁ、
会ったこと無いんだ!
生まれたときには死んでたしね」
ミッシェル「・・・寂しくないの?・・・」
セミ「うーん、さみしいっちゃさみしいけどね!」
ぶいんと飛び回るセミ。
セミ「君はお母さんがいるから寂しくないの?」
ミッシェル「母さん・・・ここにはいない・・・さみし」
じわーっと涙が盛り上がるミッシェル。
セミ「うわーーーっ泣かないで!!」
花がからかうように泣かないで、泣かないで、と歌う。
セミ「そうだ!僕が君の側にいてあげるよっ!
そしたら2人だし!
寂しくないしっ僕も君も寂しくないしっ!
なぁ、2つお得だぜ!!」
ミッシェル「えっ・・・本当?」
セミ「本当さっ!!」
やっと微笑むミッシェル。
暖かな太陽。
花の笑い声。

***
いのち・4

●巨木
セミと2人でご飯を食べている。
ミッシェル「ねぇ・・・君は怖くないの?」
セミ「なにがさっ」

●野原
セミと2人で花と戯れる。
ミッシェル「僕は生きているってすっごく怖いよ・・・
いつ死ぬんじゃないかって・・・
危険な目に会うんじゃないかって・・・そればっかり、
この頃考えてる」
セミ「・・・うーん」

●夕日の木の上
夕日をさして
セミ「ねぇ、見てよ、ミッシェル」
ミッシェル「・・・はぁー」
燃えるような夕日。
ミッシェル「・・・すごい・・・・・・」
セミ「ねぇミッシェル・・、生きるってさ、
怖いことばかりじゃ、ないんだぜ。
優しいこと、美味しいこと、綺麗なこと、全部全部。
君のためにあるんだぜ。
君が生きているから味わえるんだぜ」
ミッシェル「セミ君・・・」
無言で沈んでいく夕日を見続けるミッシェルとセミ。
セミ「怖かったら、僕がずっと、君の側にいるよ」
ミッシェル「・・・・セミ君・・・」
セミ「だから僕が死んでも、悲しまなくっていい。
僕が側にいるって事・・・
覚えていてくれれば。
僕はずっと側にいられるから」
ミッシェル「セミ君・・・?何言っているの?」
セミ「・・・前、母さんはいないって、僕は言ったよね」
ミッシェル「・・・」
セミ「あれは本当は嘘なんだ。
母さんはずっと僕の側にいてくれる・・・。
それは寂しいことだけど、本当は寂しい事じゃないんだ」
ミッシェル「・・・セミ君・・・」
ミッシェル(セミ君の言っていることは、僕にはよく分からなかった。
ただ、セミ君が僕を見ていた。
その目が綺麗だったの、覚えてる)

***
いのち・5

●蔦がはう木々の中で。
カメレオン。シュッと舌を出し、虫の一匹をつかまえる。
虫の悲鳴。
虫のアップ。

●地面
ミッシェル「・・・セミ君・・・?セミ君!?
セミ君、どうしたの!?しっかりして!!」
セミ「ああ・・・ミッシェル、ごめんね、なんだか早く来ちゃったみたい」
裏返って横たわっているセミ。
震えながらセミの手をとるミッシェル。
ミッシェル「いやだ!!やだよっ!!
セミ君、どうしたの!!!」
セミ「ごめんね・・・悲しまないでね・・・
ミッシェル・・・僕は自然に・・・還るだけだから」
ミッシェル「セミ君・・・セミ君・・・!!!」
セミの手から力が抜ける。
セミ「ミッシェル・・・・」
セミの死。
ミッシェル「セミ君・・・・・・・・・!!!」

●蔦のはう木々の中。風が吹く。
絶望のミッシェル。
よろよろとあてもなく、森を飛ぶ。
ふらふらとカメレオンの前に。
カメレオン「ぐぇっなんだいこの辛気くさい蝶は!!
あっちへお行き!!」
ミッシェル「・・・」
カメレオン「あっちへおいきってば!!!」
ミッシェル「食べないの・・・?」
カメレオン「馬鹿いうんじゃないよ!
あんたみたいな変な蝶、食べたら腹をこわしちまうよ!」
ふーっと風を送るカメレオン。
よろめき、飛んでいくミッシェル。
ミッシェル「ああ・・・」
ミッシェルが涙を流す。
ミッシェル「セミ君・・セミ君・・・」
ふらふらと滂沱しながら飛ぶミッシェル。

●枯れ葉が散る。雨が降っている。野原。
ミッシェルが地面に横たわっている。
ミッシェル「冷たい・・・」
ミッシェルの視点で降る雨。
ミッシェル「僕・・・死ねなかったな・・・」
くすっと笑うミッシェル。
ミッシェル「あんなに死が怖かったのに・・・馬鹿みたい。
今は死にたがってるなんて。」
降りしきる雨。
しばらくして、そっと起きあがり、花の影に避難するミッシェル。
ミッシェル「ここは暖かい・・・」
いつの間にか眠るミッシェル。
夢を見ているのか、ぴくぴく動く。
ミッシェル(セミ君・・・そう・・・側にいてくれるの・・・?)
ミッシェルの夢の中。
セミと夕日を見ている。
寝ているミッシェルの顔。
ミッシェル(そう・・そうだよね・・・ずっと・・・一緒だね・・・)
ミッシェルの頬をつたう涙。

***
いのち・6

●野原。
生きるミッシェル。
花を他の蝶と取り合っている。
ミッシェル「なにするんだよ!
これは僕のだよー!!」
蝶「いいじゃんかよー一緒にたべよーよー!」
ミッシェル(それから僕はがむしゃらに生きた。
寂しかったけど、寂しくなかった。
あの時セミ君の言ったこと、少し分かった。)

●秋。草原。
ミッシェル(そして秋が来て・・・)
地に横たわるミッシェル。
上から小さな枯れ葉と小雨が降っている。
ミッシェル(僕に死が訪れた・・・・)
ミッシェル「不思議・・・冷たいのに。心地いい・・・」
手を差し伸べて、雨に触ろうとする。
ミッシェル「こうやって・・・前も、雨にあたっていたこともあったなぁ」
そっと目を瞑るミッシェル。
ミッシェル(不思議・・僕全然怖くない。
それどころか・・・満ち足りてる・・
この想いは・・・)
目を開けるミッシェル。
雨の粒が上から降ってくる。
ミッシェル「そうだね・・・セミ君・・・
この世はこんなに優しいね」
ミッシェル(死は怖くない。
生きることも・・・そうなんだ・・・・
生と死は同じものなんだね・・・
僕は包まれてる・・・全ての自然に・・・
生きることも・・・
死ぬことも・・・
自然の一部なんだ・・・)
ミッシェル(ああ・・・
僕、自然に還るんだ・・・
セミ君・・・君も・・・そこに・・・)
ゆっくり景色が消えていき、闇。

***
いのち・7

●天国。雲の上。
神「やれやれ。自然の一部になってしまったか」
母「もう・・・」
神「そうじゃな。もう、輪廻からははずせないな。
あやつは自然として生まれ、また死ぬのじゃ」
母「それでもいいですわ。あの子が幸せなら」
神「・・・輪廻を回っている内に、
セミとも会えるじゃろうな」
母「その時が楽しみですわ」
ふふふふと、少し寂しそうに笑う母の木。
ざわめくも・・・霧がかかっていき・・・・

●現代。普通の家の前。
転生したミッシェル。家の中から声。
ミッシェル「おかぁさん、はやくう」
人間の母「ちょっと待ちなさいよ、ほら、パン」
ミッシェル「もーーーーー!!!」
家を飛び出すミッシェル。
歩いてきた男性と目があい、立ち止まる。
男性も、ミッシェルを見る。

ナレーション(2人はまた会い、また歩んでいく。自然として・・・)