みつめ

To the sad ... 0

此処は壊れた世界だ
あの人達が、楽しみながら壊した世界だ

10月2日。
半壊した町を見ながら、お弁当を食べた。
自分で作ったお弁当は、不器用で、
ぐちゃぐちゃの生野菜とかびかけた硬い米粒が
妙に美味しかった。

ぼんやりとした満月が、赤く赤く煌々と光っている。
星のない空。
この都会が壊れちゃった今、
やがて星はまた輝きだすのだろうか。
もう、彼らを隠す、スモッグは誰も作らない。

眠れなくなったのはいつの頃からか。
去年、あの人達が攻めてきて、
キングコングみたいに簡単に壊してくれた街。
しん、とした深い静けさは今も慣れない。

いっぱいいた人間達はみんなどっかにいっちゃった。
みんな捕まって連れられてった。
僕の母親と、僕の父親もその中にいたのだろうか。
それとも死んじゃったのだろうか。
分からない。気づいたら、僕は血だらけで、
何が起こったのか、必死で探そうとしていた。覚えてる。あの悪夢。

街は火花が散っていた。
もうもうと立ちこめる煙と、血の臭い。
誰かのヒメイと泣きじゃくる声。でも静かだった。驚くほど。
人間が、どこかに連れられていくのを、見たのは1回だけだった。
誰かを捜して彷徨っていた。誰でも良かった。
この状況を教えて欲しかった。誰でも良かった。独りでいたくなかった。

ヒメイが聞こえた。そして怒声。人間じゃない言葉。
走った。何が起こったのか、知りたかった。
見たのは目が三つ、人間に似た人間じゃない生物。
銀色の、馬鹿みたいな円盤に、小さな少女を押し込めていた。
少女は泣きじゃくる。僕は動けなかった。

彼らの姿が、人間に近い分、怖かった。動けなかった。
足がすくんで、なにも、できなかった。
思考は繰り返す。なんだなんだなんだ、なにごとだ。
少女に、人間じゃない生物の一人が、何かを押しあて、何かが起こった。
不意に、ぐったりと力を抜く少女。
僕はじっと、それを見ていた。

彼らが何事かを喋る。
一人が頷いて、一人が少女と円盤に乗った。
急激に光を放って、目が眩むぐらい、光を放って、
円盤が浮いた。僕はドキドキした。見つからないか。
見つかったらどうなる、僕も、押し込められるのか、
何かを打たれるのか、打たれたらどうなるんだ。
背骨を汗がつたった。

一人が手を振った。
円盤はちょっと宙に停止して、そしてぎゅいいいんと飛んでいった。
満足そうに頷くと、一人は、テクテクと違う場所へ歩いていった。

僕は怖かった。





***

To the sad ... 1

一瞬、星が光って、流れた。
あ、流れ星。
今日始めてみた星だった。

願い事をかけようか。
何が起こったのか、まだ僕はよく分かってない。
ただ逃げて、逃げて、逃げている日々。
彼らから。三目から。

「お星様」
神様
「叶えてくれるなら」
いるのなら
「あの人達を、消して下さい」
街を戻して下さい。

これは夢だと言ってください。

不意に、近くの壁が、がらがら、と音を立てた。
一瞬、背筋が凍った。
頭から血の気が引く。
振り返る勇気がなく、足ががくがく震える。

どうしてこっちを見ない

彼女の発した声は、その一言だった
彼女との出会いは、その一言で始まった


力が抜けて、僕はだらりと弛緩した
ゆっくりと振り返る、もうどうなっても良いと思った
振り返って、僕は驚いた
そこには、2つの瞳から、涙を流してぼんやり立っている彼女がいた

お前は、日本人か

うん

あまりに、突拍子もない-起こりそうにない事に、
僕はぼんやりと答えた。
泣きながら彼女はしかし、静かな、本当に静かな声で、

そうか、

と言った

私たちは何をしたのだろう……
なにも望みは叶わなかった……
……なにも

そして彼女はぼんやりと、嗚咽をあげた

ついてこい、「人間」は、全てとらえよと言われている

僕は彼女にとらえられた

***

To the sad ... 2

どうやって生きていた

宇宙船の中に、僕は押し込められた。
小さいと思っていたそれは、案外広く、
どんよりとした光に、整った家具が照らされていた

少し抵抗しようとしたら、
撃たなきゃならない と、彼女が呟いたので、
僕は抵抗をやめた
心の何処かで、彼女なら、まだ人間らしいのではないか、と思った

彼女はもう泣いてなかった

店……見つけて、
米とか、生で……。
がれきの下に、あるから……。

僕はぽつりぽつりと答えた。

そうか、と彼女は言った。
そして振り向いて、
「これから、お前を飼う」と言った。

そして日々が始まった。From KIKA By RARA



間違えだった。信じちゃいけなかった。
くそ、くそ、くそ。
ぶつぶつと呟きながら、僕は、彼女、いや、
ミリ様の机を乱暴に拭いた。
ミリ様はぼんやりと、TVを見ている。
彼女たちの生活は、驚くほど僕らに似ていた。
TVも、ラジオも、冷蔵庫も、お風呂もあった。(ユニットバスだ)
夜寝て、朝起きる。
食事は朝は軽く。昼、夜、と三食。
何もかも僕らとそっくりだった。
この頃は、ミリ様が人間に見えることもある。
高慢ちきで気の狂った人間だ。
くそ、くそ、くそ。

まだ机なんか拭いているのか。

気が付くとミリ様が後ろにいた。
拭いてます!乱暴に答えて、僕はちょっと丁寧に机を拭く。
この人は油断がならなくて、
僕に何か物事を頼むと
あんたは監視しか脳がないのか、というほど僕を見続ける。
さっきちょっと離れたのは、トイレかなんかか?
ジャーという水音もしたし。

乱暴に扱ったら、鞭だからな。
分かってます!
僕はイライラしながら、雑巾をバケツに投げ入れた。
ミリ様が目をしかめる。
今日頼まれたことは、屋敷中を雑巾がけすることだった。
このただっぴろい屋敷を!一日で!

ミリ様が頼む物事は、大抵いつもそうだった。
はっきり言うと無理難題なんだ。
そして少しでもできないと、嬉しそうに僕を鞭打つ。
許して下さい、と僕が泣き出すまで。
この間我慢していたら気絶するまでやりやがった。
気絶してからもやってたんじゃないか、くそ。

そして気に入らないことに、
彼らの医療技術は完璧だったと言うことだ。
どんなに僕が(鞭で)怪我を負っても、
なんだかよく分からないちきちきちきーと動くマシンで、
人を治しやがる。そしてまた働かせるのだ。
風邪をひいても休めない。
疲れていても休めない。

此処に来てから僕は完璧に労働基準法を違反している。
20時間ぐらい働いて残業手当も休日手当も全然なしだ。
僕ができることと言ったら、
彼女がふと後ろを向いた、その背中に、べーっと舌を出すことだ。
***

To the sad ... 3

私はお前がダイッキライだ。
人間なんて見ているだけでも虫酸が走る。

なら見なければ。と言いたいのを堪えて、
僕はぱくぱくと飯を食べた。

ミリ様がなんでか嬉しそうにそれを見ている。
僕に一回飯を作れ、と言った時、どうなっても知りませんよと僕は言った。
そのまずさに僕は吐きそうになった。
(なのにミリ様が全部食べたのはちょっと驚いたけど)
ミリ様は僕の前じゃなにも言わなかったけど、
次の日から飯だけはミリ様が作るようになった。

悔しいことに、宇宙人の飯はうまい。
どんな飯が出るのかと思ったら、
僕らと同じ、米やパンだった。拍子抜けして、味に驚いた。
僕が食べた中で、一番美味しかった。

明日は私の誕生日だ。

不意に、ミリ様が言った。
此処に連れてこられてから1週間。
いい加減にくさくさしていた僕は、はぁ?と言った。

はぁ……だと。

ミリ様の目が光る。

す、すいません、それは喜ばしいことで。

巫山戯るな。誰が賛辞を要求しているか。

獣を追いつめるように、ミリ様の瞳が細く、ぎらぎらしている。
僕をいたぶって楽しんでいる。
また鞭だろうか。
僕はどうにでもなれと思った。実際、もう何もかも嫌だった。

でもミリ様は怖かった。

お祝いか何か、しましょうか。

お祝い……?

いえ……僕なんかができない、かも知れないけど。

……何かくれるのか。

へ?

顔を上げると、なんだか真剣なミリ様にぶつかった。
慌てて、ミリ様が目をそらす。

そ、そうだな、お前も何か捧げたいだろう。
用意しておくがいい。

……

やば、と思ったけど、もう取り消せなかった。
お祝い?モノ?捧げる?
何を。なにも僕は持ってないぞ。
僕のモノは全てお前達が壊したじゃないか。

お前、これだけひっぱって、
落胆させたら……ただじゃおかないよ……?

冷や汗が出た。
***

To the sad ... 4

さんざん考えて、僕は、僕の部屋で、拾った小石を、ガラスでがりがり削った。
指が切れて血が出たけど、構うモノか。
どうせ治るんだ。

ふと、宇宙人達の事を考えた。
彼らは何者なんだろうか。
何故地球を壊したのだろうか。

ミリ様は、何故日本語が喋れるんだろう。
此処は何処なんだろう。違う星なのか?
窓から見える、広大な自然と、あの青々とした山脈。
あれはなんなんだろう。

何かが不自然だった。
あまりにも、地球と似て過ぎる。
あまりにも、人間と似て過ぎる。
家具-生活パターン-そして言葉。
違っているのは三目だけだ。

僕は屋敷からだしてもらえないけど、
きっとこの屋敷-古い洋館みたいな屋敷を出ても、
外は地球と似ているだろう。
地球の姿と。

一瞬、半壊する前の僕らの生活が想い出されて
胸が締め付けられた。
痛い。もう、哀しさはない。悔しさもない。
そこに、感情はない。だけど、痛い。
隙間が開いたみたいに、ずっとずっと痛い。
胸に手を置いても、痛みは消えなかった。

さよなら地球。
壊れてしまった僕の故郷。
***

To the sad ... 5

お誕生日、おめでとうございます。

うん

無愛想にミリ様は言った

産まれたことを悦んだことはないが、
今は嬉しいな

なんでですか?

……貴様を苛められるから?

くすりとミリ様が微笑んだ。
違う。僕は、悦んだことがないって、それを聞きたかったんだ。
君らは自由にやっているじゃないか。
地球を壊して。僕らを捕らえて。楽しみ放題じゃないか。
なんでそれで、悦んだことがないんだ?

思考をミリ様が止める。
無言で僕を見ている。
この視線が、僕は嫌いだ。

ミリ様が、すごく純粋のように想えてしまう。
何故か、とても一途なように。そんな、視線だった。

お、おめでとうございます。

口速く言って、僕は左手を差し出した。

ああ。

ミリ様が微笑む。打って変わって、なんだか優しい笑みだった。
僕の左手から、小石を受け取る。
そこには、不器用な線で、ミリ様の顔が彫ってある。

……これは私か。

嬉しそうにミリ様。

そうです

……へたくそ。私はこんなんではない。

怒ったのか……?

ああ……

不意にミリ様が、ため息を付いた。

お前達から、何故私たちは離れられないのだろうか。

その悲痛そうな声に、僕はマジマジと彼女を見た。

彼女は小石を硬く握りしめた。
ぎりぎりと、小石が悲鳴をあげる。

もういい……疲れた

ミリ様……?

ごめんな、明日で、全て終わるから。
明日、終わるから。
明日、終わるから。

僕はとても哀しそうに、手を見つめる彼女を、
おろおろしてどうしていいか分からなかった。
何故彼女が泣き出さないのか不思議だった。
それほど、彼女の表情は痛みで満ちていた。
とても、辛そうだった。
***

To the sad ... 6

そうか、死んだか……

ミリ様の声で、目が覚めた。
そっと部屋を出ると、
ミリ様は疲れたように、だらんと、空中電話で話していた。
映っていた男性が、僕を見て、
弛緩したように笑った。

……今日で終わりだ

彼が言った

ああ、終わりだ

……直した?

全てね……。簡単だったよ。
単純な構造だ。

じゃ。後で。

うん。

ぷつんと、空中の画像が消えた。

ミリ様は、空中をずっと見ていた。

僕はそっと声をかけた。

ミリ様……。

……。
無言。
哀しみだけが、空気に漂っていた。
疲れた哀しみだった。

僕は、どうしていいか分からなかった。
僕らを壊したのに、何故彼女たちは、こんなに悲しんでいるのか。
まるで、僕ら以上に。
まるで、何か、あったように。
***

To the sad ... 7

昼頃、僕はまた宇宙船に乗せられた。
うぃいんと飛んで、その中で、
沈黙と僕は遊んでいた。
ミリ様が、コントロールパネルをぼんやりと目で追っている。

なんとなく、僕は行き先が分かったような気がした。
地球の、あのがれきの山ではないだろうか。
今日で、終わる?何が。僕らを解放してくれる?
僕はなんだかわくわくしていた。

ついたところは、驚いた事に、がれきの山ではなかった。
まるで何事もなかったように、
元に戻っていた。全ての形、全ての建物、全ての風景が!
僕は呆然と、辺りを見渡した。
何が起こった?これは何かのマジックだったのか。
あれは、なんだったのか。あの襲撃は。あの壊れた世界は。
笑い出したいような、泣き出したいような、不安定な気分だった。
やった、戻ってきた!戻った!戻ったよ。

ミリ様が、そんな僕を、じっと見ていた。
公園で、僕は降ろされた。
ドキドキしながら、僕は、次の言葉を待った。
何を言われるのか。きっと、何か、嬉しいことだ。
でもミリ様は、ため息を付いただけだった。

そして言った。

さよなら。

僕は驚いたことに-その言葉に-ショックを受けた。

ミリ様はじっと僕を見た。
その瞳に、涙がたまっていった。

お前達は、どうしても私たちを嫌う。
最初、私たちをあの土地に閉じ込めて、出てくるな、と言ったのは
お前達だった。
私たちは、迫害されていた。
がんばって、抵抗した。好きになって欲しかった。
本当は。人間だと認めて欲しかった。
でも、駄目だった。もう壊しちゃえと誰かが言った。
だから、壊した。そして人を連れて帰った。
一緒に暮らそうと、誰かが言った。連れて帰って奴隷にしよう。

……死んでいった。奴隷達。
何が悪いのか、みんな、一人ずつ、自殺していく。
目を放した隙に。監視し続けると、狂った。

私たちは、疲れてしまった。
なにも。手に入らない。全て、掌から消えていく。
掴もうとした、お前達はこばんだ。
何が悪い。何がいけない。お前達のせいだ。
ずっと、ずっと、お前達のせいだ。

ミリ様は、あの時、僕に出会ったあの時と、同じ静かな声で、
淡々と話した。
僕は、じっとその話を聞いていた。
ミリ様の涙が流れるたびに、ショックを受けた。
それがショックだった。

私たちを憎んでいる。
それは知っている。
憎まれても良いと私は思っていた。
私こそ憎んでいるのだから。
復讐してやる。殺しても飽きたらぬほど。

でもなんで痛いんだ。
なんでこんなに痛いんだ。
夜中、寝れないし、お前が、見ていると、嫌がるし。

やっと……

その後の言葉は言葉にならなかった。

やっと……

ミリ様が何か言った。
彼女は顔を覆って、嗚咽をあげた。

僕はショックを通り越して、
何か夢でも見ている見たいに彼女を見ていた。
彼女の言葉が理解できなかった。
理解したくなかった。

あっちへいけ。
……もういい、私たちは、もう、いい。
……

ミリ様は小石を取り出した。

返す。

僕はぼんやりと空を見た。
満月だった。綺麗な黄色い満月だった。

あ、流れ星。

ミリ様が、僕の視線を追う。

ああ、あれが流れ星というのか。
……くだらない……。
私なら、その人に願う。

願い事なんか、あるんですか。

僕はくすっと笑った。

に願う。

え?

ミリ様の声がよく聞こえない。
僕は心が麻痺していた。
ミリ様が僕を見る。
真摯な瞳だ。
見られるたびに、そう思っていた。
一途な瞳だった。

お前が私を嫌っていても
それでも好きでいる
私を許してくれ
***

To the sad ... 8

僕らは日常生活に戻った。
日本人は馬鹿じゃないかと思った。
こんな目にあっても、1日もすれば、
仕事に戻る。常識に戻る。
僕の両親は生きていた。
いや、驚いたことに、
僕の周りで、あの事で、死んだ、という人はいなかった。
TVでも、死亡した方、というニュースは流れなかった。
どういうマジックを使ったのか、
彼らは僕らを完璧に元に戻していった。

自殺した、と言っていたのに。
自殺していった、と。

ミリ様の、言葉がたまに想い出される。

冒険家になりたい、と言い出したとき、
両親はさほど反対しなかった。
それどころか、良いだろうって言ってくれた。
驚いたけど、もしかしたら両親も、
年が若ければ、冒険家になりたがるかもしれない。

彼らのやったことを、許せるかどうか、
僕はまだ判断できない。
あまりの恐怖に、心が何とかという傷を負った、という人もいる。
彼女たちは、心まで治せないらしい。
TVではしばらく騒いでいた。

大勢の人が、彼女たちに憤怒と憎悪を抱いていた。
声たかだかに、彼らは叫んだ。
怒りを。
憎悪を。

だってまた攻めてくるかも知れないんですよ、
軍事力を強化すべきです

そんな事を言う人もいた。
おおむね、その意見は同調された。
大国や、僕らの国は、争いが少なくなった

なんだか世界中で、あの事件から、一体感が産まれているようだった

僕は、これからきっと起こる、色々な障害の事を、
考えた。
そして、僕と同じ意見を抱く、
ごくごく1部の人たちの事を考えた。

TVでは戦いが始まっている。
論争、と言われる奴だ。
何度も特集が組まれて、
何度もお茶の間に流れた。
僕と同じ、一部の人たちは、何度叩かれても
その意見を変えなかった。

探そう、と思った。
彼女たちを捜し出そう。

もう、泣かなくてもいいように。
もう、あんな顔をしなくてもいいように。

彼女にあげた、小石の半分を握りしめた。

安心して良いと、僕が言うから。
だから、もう、泣かないで。
***

To the sad ... 9

……やっと始まったな

うん

……上は、交渉に入るようだ

また喧嘩になるかな

さぁな。
ただこっちはみんな、半分諦めかけながら
半分……
……信じてる

何を?

さぁな。

大国は君らの技術が欲しいようだよ。

ま、上もそこら辺を使ってうまくやるだろう。
私たちもしたたかだからな。

あのさ。

ん?

言い忘れたんだけど。

……ん。

小石、まだ、持ってる……?