彼女のなまえはここという
さまざまな漢字をつかって
その名をあらわすのが、
彼女はすきだ

彼女はひとのふりをしているが
ひとではない
証拠に、彼女には骨がない
うごくにくのかたまり
それが、ここ

ここは好きなように顔を変える
骨がないからかえられる
ねんどのようにつくりあげる

そうして
人形のような顔をいつもしている
ひととくらべ、鏡を見て
きれい、と思うのがすき

ここは嘘をねぐらにしている
嘘のなかにいつもいる
そうして、いつも
不安やおそれをいだき
愉悦でそれをけしさるために
暴虐を求めている

ここはひとに嘘をつかせるのもすきだ
とくにいま自分がいじめている人に
嘘をつかせるのがすきだ

「わたしのせいです
ここさんは
わたしのためをおもって
いじめてくださっているんです
みんな、ここさんをせめないで」
なみだながらに
ここにつながれたものたちは
血をはき、血をながしながら
うったえる

ここはいつもひとりを
暴虐の対象にする
そうしてそれ以外を
じぶんの味方にする
味方とおもいこむ

「みんなを信じているから
みんなが、
私を嫌いだなんて
しんじられないの
あいつが
けしかけたんだわ
みんな、そんなわるい人じゃないはずよ」

それがここのいいぶん

あいついがい
みんないいひとで
ワタシのみかたのはず
みんないいひとのはずだから

ここはまるで麻薬のように
暴虐することを
求める



ここと戦っている人たちは
おもうより、すくなくない
ここに暴虐をおしつけられたものが
少なくないように

ここに殺された人たちの親族
いま、ここにつかまっている子を
まもりにがすため
少なくないひとたちが
それぞれに、ここと戦っている



このあいだ
ここの背中に
炎がついていたのをみた

ここの背中はぼうぼうともえ
なにか恐ろしいものを
みたかのような顔がうかび
無言でくちをうごかして
もだえ苦しんでいた

もしかしたら
あれがここの
素顔なのかもしれない
ひどくいびつな顔をしていた



ここは嘘をねぐらにしている
嘘のなかでいきづいている
だから、いつも
不安と恐れをいだいて
それを愉悦とうそでごまかしている

ここは事実をきらい
嘘をあばかれることをきらい
まわりがここの嘘に
のっからないから
まわりに怒りをもち
その怒りを奴隷にあたえている



ここは骨がない
だから骨を知らない
ここはひとの骨を折ろうとする
「こらしめてやろうとおもった」
そういって、折ろうとする

ここは骨がない
だから
こうしたら苦痛だろう、ではなくて
こうしたら、まえのやつらはいたがった
そういうきもちで
ひとの骨を折ろうとする

ここは、ひとではない



ここのなまえは
嘘孤とかく
ほんとうは、そこと呼ぶ

彼女の背中は
今日も、焔になぶられている