それらの奇っ怪な特徴は
はなにある

その顔も
ひとの顔でしかないのに
みょうに奇妙で
気味悪くおぼえる
だが、いっそうに奇妙なのは
顔の真ん中にある
鼻の穴だ

彼らの鼻の穴は
見ているだけで、
気持ちがおちつかなくなる
たとえるなら
腐りきった汚物を
触れたときのような
嫌な感じをはなっている

トモはかれらの写真を
すうてんみたあと
「はなの穴になにかいる」と
いっていた

――

かれらが
ワレの知り合いのジジニに
あいそふりまいて
こびうってきたとき
ジジニは初見から
厄介なことになったぞ、と
おもったらしい

厄介なやつらがきたぞ、ではなく
厄介なことになったぞ、と。

ジジニは
いっけん不良中年にも
ダンディーといえるようにもみえるが
なかみは風来坊で
人当たりがいいのに
人見知りする
警戒心と勘が鋭い中年だ

自称のなんだのが
媚を売ってくる立場にあるからか
それとも生来のものが
その立場をきずきあげたのか

とにかくジジイニは
ワレにそいつらのことを
こまり顔ではなしてきた

「だいたい、集団でくるのもおかしいが
そろいもそろって
顔が妙なんだよ、いやらしい」

そうして渡された
数点の履歴書のようなものには
すべて白黒の四角い写真がついていて
たしかに、そのどのかおも
みょうにいやらしく
ヒトの顔なのに
ひとにみえない、
奇っ怪な様子をしていた

ジジニはそんな仕事をしているから
ワレのような胡散臭いものとも
「信頼できる」なら
つきあいになるようなひとで
相談ももちかけるようなひとなのだが
とにかく、
写真をみながら、ワレもまたジジニとおなじように
厄介なことになったぞ、と思った

いっけんひとに見えるそれは
ワレにはなんのひとにもみえんかった
中身が空なのだ
中身がないやつは確かにいるが
そんな風合いでもない
いうだれば、
呪いにつかう藁人形ににていた
ヒトのにくをもっているだけの
藁人形ども。
そうして、なにかに使われているような
そんなものにみえた

「こりゃー、ワレのてにはおえん」
「おえんかー」

ジジニはまいったな、とハゲ頭をこすりあげる

「これがきてから、
たいへんなんだよ、
断った、断っただけなんだが、
つまり、仕事をまわすのをね。
そしたらいろいろ、
いろんなことばかりでね。
で、こいつらからタイミングはかったみたいに
メールくるわけ、
丁寧な文章で。
誤解があると思いますが
ワタシたちは役に立つと思うのです、的なね。
文章だけおえば
なんとこともないね。しつこいけど。
でも、なんかね
このひとたちのことひきたてなきゃ
やなことが続きそうだって
変な気持ちになったんだよ」

ワレはもういちど、ワレのてにはおえん
これは、たぶん
よくなさすぎるものたちだ、と伝え
とにかく、この書はあずかっておく、と
その書をあずかいうけた

――

トモはワレよりはっきりしているもので
街角で占い師をしている
オーソドックスなタロット占い師だが
たまにくる「ちゃんとしっている」「上客」に
「お金相談して」「運をつけてあげる」
それが、ほんとのトモのしごと

それでその写真らをみせたら
やはり、ぎょっとしたように
眼をみひらいて
「あーそういえば
あんた今日、夕飯餃子でもどう?」と
全く関係ないことをいった

それで冒頭にもどって
「はなの穴になにかいる」と
そうそうに占い師の店を片付けて
はいったいつもの餃子店で
トモはワレにいった

「あれ、
おまえはのろいの藁人形だのいうたけど
あれ、あれら以外にもなんにんか
みたことある
オチタヒト達だよ」
「オチタヒト?」
「神社いって、そのイヤなことが
おわるまで、なんども、いって
しあわせをいのって
詣でなさいって
そのかたにいっておいて
たいていそれでとれる」
「トモ、なんか、なれてるな」
「……」

餃子ほうばりながら
トモがいう

「鼻の穴にいるの、よくみようとしないほうがいいよ」

――

そうして、そのこと
ジジニにつたえて
ワレもついでに
毎日神社に詣でていのったら
数週間してジジイニから電話があった

「おわったみたいだ
なんでかね
最後はあの人達からメールさえなかったのに
あの人達のけん、おわったな、って
いま、わかったんだよ
なんなんだろうね」

ジジイニはひさしぶりに
明るいさっぱりした声をだしていた

――

それからまたしばらくして
ニュースに件のひとたちがでていた
なんだか、事故をおこしたとか
あげく逃げたとか
詐欺をしたとか
ちいさく、しかし、
はっきりとした顔写真つきで
報じられていた

その顔は履歴書のままだった、なのに
全員、みょうににくくずれし
目の下に何重にも肉が垂れ下がっていた
鼻の穴はやっぱり
奇妙で異様ないやらしい形を放っていた

――

そのあと、
トモとはなすと
トモは笑いながら
「あいつら全員似たような顔になるね」という

それから急に真顔でだまりこんで
「鼻の穴にいたの
ヒトに見えた
ひとだったひと
黒くてがりがりで
頭がぶよぶよで
くちがとがってて、でも
からだつきも、顔も
ヒトに見えた」

それからしばらくして
トモはため息をついた
つかれたように
餃子、たべにいこう、と
わらった