季節恋し、と亀は言った
亀は一千年生きてきた
一千年間で、老衰だった

想い恋しと亀は言った
亀は誰をも愛さなかった
うさぎとて愛しはしなかった

愛など亀は知らなかった

亀はいま、たったひとりで死のうとしている
いさぎよし、とつぶやきながら
亀はただ、ひとりぼっちの想いを知っている

亀の目から雫が落ちた
空はどこまでも蒼く澄んだ、透明色の風だった

亀は神様に感謝する
例え独りであったとしても
亀のそばには命があった

風も
水も
木という木々も

亀は知ってる



亀がひっそり息をとめて神様のもとへ昇った時
吐息のような風が吹いた。
(シリーズ: イド )
2005-07-09 00:00:00