一秒間だけ、女神

きっこのなまえは
吉寺 占め子という
親が何を考えて
そんなたわけた名前を付けたのか
私にはわからない
きっこはいつも、親の話をしなかった



きっこが酔っ払いながら
よくいうことは
昔の男の愚痴ばかり
あいつしね、しねしねしね
そればっかり
きっこにいかにひどいことをしたか
そればっかり
なのに、すぐ
きっこは男をつくってしまう
よく、わかりもしないまま

きっこはひとりでいられない



わたしがきっこと
夜の湖を歩いていた時
きっこは船に乗りたいと
わがままをいった

男とならわがままも可愛いが
女だったら、おまえ
うまくはいかないよ
そういったら
じゃあ、女を
わたしのいいなりにさせるには
どうすればいいのよ
そう、いう

お前に都合のいい人間なんか
いないんだよ
理想求める 凡人シンデレラが。
ボンデレラが。
そういったら、泣かれた



「真のでれらが しんでれら
 凡のでれらが ぼんでれら
 偽のでれらは にせでれら」

「でれらってなに」

「われらのことだ」

「ふざけんな」



きっこは
ネットのえすえぬえすとかいう
なにかで
偽善面をしている

私は偶然それを見てしまった
奇麗な写真をつかって
うつくしい
優しい言葉をならべていた
かわいい女の子のふりをしていた

おんなのこには特に優しかった
いつも、あの顔だけ女、とか
あのうぬぼれや、とか
さんざんいって
あの女から男をとるとか
嬉しそうに、言うくせに

わたしのほうがかわいいもの

そう 言うくせに

そのネットで
きっこが写真とともに
あげていた物語が
いくつかあって
わたしは、おかしくて
おかしくて
いつも、いつも
笑いながら
見ていた

とくに「パーティーギフト」と
かかれた詩をみて
くるしいほど、笑った

心底、バカにした
きっこは
酔っ払いだと思った
自分が奇麗なふりして
酔っ払ってる
たわけた女だ




わたしは、バカにできる人が
ほしかったのかもしれない
現実では、きっこと
何食わぬ顔をしてあい、
そのあとで
きっこのサイトを見て
わらった。



きっこが、私の部屋に泊まったことがある。
彼女はぱじゃまをもってきて
果汁酒を何本も飲んで
ぐえっとげっぷした。

きっこが
私の肩にもたれかかって
「なんでわたし、うまれてきたのかな
 なんでわたし
 こんななのかな」と
笑っているから
「しらない」といった
「甘えているとか
 いわないんだね」
そういうから
「みんな思うことだから
 責めあって、つぶしあうのは
 好きじゃない」
そういったら
きっこは「あんたはいいなぁ」といった

窓を開けたら夜風が吹いて
すずむしのなきごえが
かすかに流れてきて
きっこは小さく
ふしぎなうたをうたっている

 おかえりなさい
 おかえりなさい
 まっていたの
 ずいぶん おそかったのね
 まっていたの

 おかえりなさい
 おかえりなさい
 まっていたの



そういえば、一度だけ
きっこが
嬉しそうに私にいってきた
「あのね、なつみ、
 わたしね、このあいだね
 あのね、うふふ
 はじめて 幸せを祈れたの
 人の幸せを
 祈れたんだ」

そう きっこが
嬉しそうにいった

「ねえ わたし やさしい?
 まにんげん?」

答えられなかった



きっこと別れて
2年ほどたってから
風のうわさで
きっこが結婚したと聞いた

私は隣にいる
友達の顔を見る
その顔はきっことは
似ても似つかない
冷静で、独善家で
それでいて優しい

ともだち

こいびと

にんげん

しりあい

ともだち

こいびと

 にんげん ともだち

 なかよく にんげん



きっこにいいがかりをつけられて
私がきっこのほほをなぐり
別れてから
2年間一度もあわなかった

きっこの話をだした女友達は
私が、すこしびっくりしているのをみて
ふ、と笑った

近づかないようにしていた
たがい、近づかないようにしていた



なぐったあと
きっこの目が
なんともいえない色を帯びた

わたしは それをみて
ふらふらと、台所に行って
じぶんにフライパンをうちつけた

何度も、私を殴った

なんども、わたしをなぐった
ごわんごわんおとがして
鼻血がとびでたけど
痛みはなかった
心のどこかで
フライパンっていい音するなぁ、と
思っていた

喧嘩はいつだって滑稽だ




きっこのいいがかりは
きっこのおとこを
わたしが とったという
へんてこな はなしだった

 いちばん あいしてくれた ひとなのに
 どうして ひどいこと するの

 どうして



やさしくなりたかった
奇麗な、せめて
いることを
よろこばれ
愛される人間に
なりたかった

いることを喜ばれる人間になりたかった

なんで 生まれついての自分は
思い通りの自分と
まったく違う つらをくっつけ
笑っているんだろう




きっこ

この手紙を
いまは、出そうと思うけれど
きっと、私は後で破いて
棄てると思う

届いたら、
すてなかった分だけ
私を許してほしい
勝手な言い分だけど

きっこ
いま、まだ
あなたはあなたが嫌いなんだろうか
愛されるたび
あなたがあなたを嫌いだから
不安になって
臆病になって
こなごなに 崩して
アンドする
それを
繰り返しているんだろうか

きっこ

わたしには
わからない


きっこ
ひとはみんな
みにくい心を持て余しながら
奇麗には
生きられない
だから

劣った自分をせめて
せめて せめて せめて
拒否したくて

なんでもっと
良い人間に生まれなかったんだろうと
みんな 嘆いているんだとおもう

いまさらあなたのことが分かって
あなたがやっぱり
嫌いだと思った
あなたとともには
いられなかった

あわれみでも
同情でもない
きっこ これは
私が あなたを嫌いな
理由の手紙だ

わたしもあなたとおなじだから

ひとはみんな
醜い自分をもてあまし
奇麗にはなれない

ひとはみんな
理想通りに
強い優しさなんか
もてない


理想と現実のはざま

理想の自分と
現実の自分のはざまで
現実の自分を

苦しめているのは
理想の自分 なのかもしれない

きっこ あなたに 許しがあればいい




なりたくて
なりたくて
なれないじぶんを
きらいながら

うえをみあげて
ほしをかぞえて
いのる

どうか もっと
やさしくなりたい
やさしくなりたい
やさしくなりたい

あいされたい
あいしたい

やさしくなりたい



「パーティーギフト」

私は 私へのギフト
いやな気持になって
受け取れないギフト
あけることさえ
できなくなった おくりもの

あけてごらん
パンドラの箱が開いて
みにくいものがたくさんとびでて
ないて ないて くるしんで

さいごに 希望が 飛び出るよ
2011-10-02 21:48:54