ダイヤモンド

ダイヤモンドはね
たかいたかい
圧力の中
ずっとずっとがまんして
なるんだよ
たかいたかい
圧力の中
ずっとずっと がまんして
ぐっとぐっと がまんして

光り輝く ダイヤモンドになるんだよ



電車道
行の電車と、帰りの電車の
はざまにあるホームで
Aは本を読んでいた

Aはいう
人生は、YESとNOの選択ではなくて
AとかBとかCとか
そいうことの選択だと思う
おれはね
3回、選択してきたけれど
たまに、あのとき
ちがうことを選択していたら
どうなっただろうと
思うことがある

―― この本
人を愛する資格が
偉そうに書いてある

愛する勇気がなければ
愛される資格は
ないんだよ

そう、書いてある
ははは

―― 後悔? いいや
そんなもの、もっていない
だけど、たまに
あのとき、辞めなかったら
あのとき、つづけていたら
あのとき、あの
ひとことさえ いえたら

そう思う時はあるよ

―― ふうん
ダイヤモンドって
圧力の下でうまれるのか

だから、石言葉が、
純粋な意志? ほんとうに?
あはは

え? 誓い?
ああ、純粋な意志は
誓い、だよな
ほんとうにね

―― 誓ってもいないし
強くもない
ただ
純粋すぎる意志は
誓いになる



誰かが、布団を干して
たたいているらしい
ああ、いいお天気だもの
ぱあんぱあんと
布団の鳴る音がする

静かな喧噪
光の中
大きな音を
出すことを
誰もがためらっているようだ
小さな音が
積み重なって
なんにも聞き取れない
ちいさな喧噪




―― 取り返しのつかない日を
なんかいか、送ってきてしまった気がする
確かな記憶なんか
持っていない
だけど、取り返しのつかない日を
送ってきたようだと思う

―― 過去を思い出すと苦しいのは
過去が、過去だからかもしれないね
過去はもう、
取り返しがつかないもの
そのものだもの

―― ダイヤモンドは
圧力の下で
なんねんもかかって
たえぬいて
純粋な光を
放つようになる

つよい 意志
つよい 誓い


でも、べつにそれで
なにか
いいたいわけじゃない




線路の向こうから特急がきて
線路のこちらからも
特急がきて
ぱああん、と
ホームをはさんで、いきちがった

Aの本がばたばたいって
Aの髪の毛が舞いあがって
ほこりがとんだ

Aは、
すこし、わらっていた

―― あ の ね

くちがひらいて
また、とじた

あ の ね
あ の ひ と の

その唇を見ているうちに
Aの前に普通電車がはしってきて
大きな音を立ててがとまった

Aは僕を見て
しばらくしてから
「じゃあ」といった

しまりかけた扉にはいりながら
Aが手を振る

ぼくは手を振らなかった



空を見上げると
薄い青い上に
しろいしろい雲が
漠然と流れている

そういえば
海から見上げたらほら
泡が、白い
ひかりが、きれい

ここから見上げたら
雲が、しろい
ひかりが、きれい
うろこ雲
縫うように
ひこうきぐも
ひこうきは
魚のように光る

選択はいつも
YESかNOではなくて
2つのなかから、とか
はっきりした 選択が
並んでいるわけでも
なくて
偶然 選んで
あとで 選んでしまったことが
わかってしまう

そんなようなものの
気がする

取り返しのつかない選択を
漠然と、漫然と繰り返し
毎日は
つくられていくのかもしれない



つらなる毎日の
圧力の中
誓い、壊れない意志

いつか、ダイヤモンドに
あなたのなまえを刻んで
あいらぶゆーを
つたえたい

2011-10-02 23:56:24