ひかれあうちから

手紙には
はりつけたあと
いちど、はがそうとしたのか
よすみがねじれた切手に
赤のえのぐで拇印がおしてあった

ゆうやみに沈む砂原
銀色にたくさんの砂が輝いている
どこの海なのか
ついにおしえてくれないままだったなあ、と
ぽっと、おもう

いつもあなたが
連れていってくれた海は
いったい、どこだったんだろう

つれられるまま
なんにもかんがえず
まかせっぱなしで
わかれて、わからなくなって
まだ、場所が、わからない……

かいがらのひかりのような
金色にひかひか光って
月がのぼっている
夕陽がまだのこり
海原のあちらは
やわらかな赤紫色をおびている

だうんだうんと
海鳴りをひびかせて
波がうちよせる

ほんとうに、ざあざあいうんだねぇ……

コンビニが後ろにある前の土手
スカートおりまげ、すわって
長すぎて読む気になれなくて
最初だけ読んだ手紙
またとりだす

いつのまにか
クチャクチャになってしまった紙
コピーでもとればよかった
よみおわるころには
きっと、もっと、
クチャクチャ


……どこかにいたいとねがい
どこにもいられないと
わかり
星はたくさんかがやき
ひかれつつ
はなれつつ

星はひかれあい
影響しあい
たがい、たがい
必要としている……

彼の筆跡は読みづらく
だこうし、ゆれて
ひたひたに、かかれる


蛍光灯が
もう、うすくしろい灯りをともし
そのはしらに
むりやりつけたようなスピーカーから
かすかな歌声がひびく

……それでも
とおく
あこがれながら……


季節外れの砂辺
カートを砂にとられながらも
無理にひっぱるおばあさんがひとり、
釣りざおをもったおじさんがふたり、
たいして面白くもなさそうに話ながら歩いている
おばあさんの赤のセーター
おじいさんの黄色と青のセーター
あ、信号だ……
気がついて、おかしくなる

もういちど、気をいれて
彼の手紙に目をおとす

ひきあい
たがいに影響しあい
星はいるんだ

だけれど
ちかすぎたら
やかれ
ちかすぎたら
つぶれ

星は孤独
たくさんのかがやき

ひかれあい
いなければならない
たくさんのたがいに
みちびきあい

なあ、
地球の重力は愛なんだって

ひかれあうちから
あれは
愛なんだ……

あ、これ
話もしていた

大真面目に言う愛と
やけにすきとおって
真剣な目が
おかしくて、
笑えないから
かなしかった

愛なのね……

きゅうに
笑いそうになって
そらを見上げた
胸がみょうにいたい
するどくて
いたかった

もう戻れないんだ、と
おもった

彼と会ったのは
学生の頃
すねてひねていたわたしは
流行で恋をし
流行で仕事をした

なんであんなに
ほしくもないのに
ひとのほしさにあわせ
たくさんたくさん
欲しがっていたのか
だけど、とても
たのしくて、きらきらしていた


……ひかれあうちから……

ぽつんと砂辺に
あかいポットがおちていて
誰のものなのか
砂にまみれ、さびている

そらをみあげると
星がたくさんあった
たくさん、たくさん、あって
ちかり、ちかり、
またたいていた

ひかれあうちから……

たがい、たがいに
ささえあう
力のなか
ひかれあうちからが
わたしたちを
いかし
星星を
つなげ
すべてを
生きあい
いきあい

手紙のさいごに
銀色のぺんで
へたくそなロケットと

さよなら、またねと
かかれていた
2012-03-21 19:43:22