やわらかなぬくもり
隣にいて、いすぎて
とても
うとましくなっていった



赤い色のちいさなきのみが
森のあちこちに実り
地におちたり、腐ったりしている
私たちは
その実をひろい
ただ、あつめつづける

なぁ、これが
だれのところにいくのか
おまえ、知っているか

ミャシャコがいう
私は知らないと答える
ただ、森の隅におかれた
白い木の馬車に木の実を載せ続ける
やまもりになったら
馬車屋がお金をくれる
それから馬をひいてどこかにいく

あのな、おれらのとうさんだよ

とうさん?

おれら、母さんしかいないだろう
あの城にとうさんがいるんだよ
とうさんのところに
木の実が運ばれるんだよ

とうさんが、たべるの?

きいたら、ミャシャコは笑う

そうかもしれないな

ワタシは馬車を見る
白い木は赤い実の汁でそまり
わずかに桃色づいている
疲れているらしい馬車屋が
こっくり、こくりと
居眠りをしている

お、おお、
サチさん
実、あつまったかい

私の目線に気づいて
馬車屋が聞いてくれる
何も言わず
手で指し示すと、馬車屋は
荷台のたるいっぱいにもられた木の実に満足したのか
じゃあ、いくかな
そういって、
おお、忘れるところだったと
金貨をふたつとって
ワタシと、ミャシャコにくれる
そうして
馬をはしらせはじめる

ぱからん、ぱからんと
馬車のうしろすがたが
ゆれながら遠ざかり
音がすぎさる

……ミャシャコ、とうさんに
会いたいと思う?

おまえは、どう思う?

……あの赤いあとを
たどれば、会えるわ

……そうだね

馬車がとおったところは
赤い実の汁や
崩れた赤い実がおちて
はっきりと分かる

……いってみようか



夜までかかってたずねると
すこし高い塔の横に
桃色の馬車はおいてあり
たるはみな空っぽだった
底の方をのぞいても
赤い実の1つもなかった

上の方の窓から
温かな光がもれて
かちゃかちゃいう音が
おちてきた

ねえ、ミャシャコ

うん?

よく考えたんだけど
おとうさんが
私たちに会いに来ないってことは
わたしたちも
会ってはいけないんではないかしら

……そうかもしれないね

ミャシャコはいう

……そうかもしれない

ため息のように。

ふと、上の方から
なにか妙な音と
うたが、流れてきた

―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた

―― 真金色の草を
くんしょうみたいにあんで
赤茶けた布をきたひとのとなりで
それを
胸に、つけた

―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた


……かえろうか

ミャシャコがいう

うん、とこたえる

疲れていたけれど
帰るのが良いんだろう
疲れたから
手をつないで良いかと聞いたら
ミャシャコは
すこしはにかんで、何も言わずにつないでくれた

かえったらシチューを作ろう
にんじんをいれて
ミルクをいれて
シチューを作ろう
今日は久しぶりに
ミャシャコと寝たいと聞いてみよう
ふたりで
窮屈だとこまりながら
寝よう

そういえば
母はいつも
もう、会いたいと思っても
会えないひとって
いるんだね
そう、いっていた

ひとは どうして
したことは
わすれてしまい
されたことばかり
おぼえているの

なんでかわからない
すこし、泣きそうになっていた
2012-02-29 19:30:49