れもん

満月のよるはきんかん
三日月のよるにレモン
それぞれを
月がよく見える窓辺に飾ると
自分も月のひとつだと
かんちがいして
そのうち光だし
もっとうまくいくと
思いこんだ力で
うきはじめるらしい

はるよさんは
その噂を近所の子供から聞いて
早速、ほどよい黄色のレモンをかってきて
三日月がよく見える
お気に入りの窓辺においてみた

夜の町は静まり返り
どこかでぼおおおっと
機械音がする
たまに誰かがよっぱらって
歌ったり、騒いだりして
通り過ぎる

はるよさんは
三日月をこころなし
みあげているような檸檬の様子を
遠目でちらちらとみながら
思いこんで
くんれんをしだすなら
私がここにいては
悪いかもしれない
恥ずかしいかもしれない
それでは私は紅茶でも入れて
なに食わない顔をして本でも読みましょう、
そう思いたち、台所にむかう
しらず、鼻歌が流れ出る

うまくいけば、檸檬が空を飛ぶ様子が見られるかもしれない
心の底がうきうきする

甘い紅茶をいれて
部屋に戻ると
檸檬が浮く代わりに
しろいきれいな蛇が
檸檬をしみじみ見つめていた
そのつぶらな瞳を
ひょ、と驚いたようにはるよさんにむけて
あれ、あれあれ、と口にした
はるよさんが
あれ、あれ、と
めんくらってオウムのようにかえすと
蛇は少しばかり落ち着いたのか
いいえ、これはこれは
窓辺に丁寧におかれた
檸檬さまとは知らず
お月さまのように見えました
わたし、お月さまにかえりたくて
さまよっていましたの
わたし、
ちきゅうの蛇のようでしょう
実はお月さまの蛇ですの
ふと、ねているあいだに
こちらに落っこちてきてしまいましたのよ

ひといきついて
蛇は檸檬をしみじみみつめ
また、はるよさんに頭首を向ける
小さなかわいい頭

失礼しました
檸檬さまが
お月さまに見えましたのよ

はるよさんは
思わず笑ってしまいました
では檸檬はうまく
自分をお月さまのひとつと
思いこんだのでしょう

それから少し困りました
月の蛇、たしかに
皮膚がわずかにすけて
骨といい、内蔵といい
きれいな銀色に光っている蛇は
月の蛇なのでしょう
檸檬にばれないように
彼女に、檸檬のうわさを伝えるには
どうすればいいのでしょう

考えていたら
あれよ、あれよと言う間に
檸檬が
ふんわりと宙に浮き始めました
とうとう、思いかなって
檸檬は月のひとつとなったのです
それで大慌てで
はるよさんは叫びました

檸檬さんは
こよい、お月様になりました
うまれたばかりのお月様なのです

まぁ・・・・・・

蛇さんはそれはそれは大変驚いて
ふんわりと浮いて
そのまま、ゆらりとも動かない檸檬を見つめます

でもすこしちがうわ、
ひかりぐあいがね
私は月の蛇ですし
お月さまのことなら
すこしだけ、くわしいのです
よろしかったら
檸檬さん、良いお月さまになるために
私といらっしゃいませんか

蛇さんがおっぽを
人間が握手を求めるときのように
そっと差し出すと
檸檬はふんわり
そのしっぽの先端に自分を乗せました

蛇さんがはるよさんをみます

よろしいかしら、と
その目がいっていますから
はるよさんは満面の笑みで答えます

おげんきで、檸檬さん
良いお月さまに
なれるとよいですね

蛇さんは
ひとつ丁寧におじぎをして
また、檸檬さんもわずかにゆれておじぎをして
それから窓からひょい、と外にでていきました

はるよさんは
しばらくうまくいえないような
満足したきもちに浸っていましたが
ふと、窓の外を探してみました
もう蛇さんの姿も
檸檬さんの姿もありません
ただ、金色の三日月が
何事もなかったかのように
わずかばかりの星を背に
ふんわり空に浮かんでいます

酔っぱらった誰かの歌声が
とても心地よさそうに
ひびいてきました