やわい

やわいやわい夜
ひかりごけのあとおって
湖についたので
布ほどいて
そばにあったほそっこ枝に
みみずつけて
つれるかと、湖の中に
ほおりこんだ

尚志がきて、後ろに座って
尚志はふふくげだった
どうしてもわからんもんかね

この湖のそこには
ぬしがいるんだって

そうかよ
ひさしは丸っこ小さい
毛深い黒い顔をぬぐって
ぺっと舌にからまった毛玉をはいた
はんかけの耳がこそばゆい

くっつけるなよ

いやだよ
ここがあったかいんだ

しばらく湖が きんきんと
音をたてて揺れていた
風がやんだら、こんどは
魚たちがこけをたべはじめ
なんともいえない
しょわしょわしょわしょわ
音が鳴る

ひさしは僕の腰をふとんにして
顔をたらっともたれかける

ばかにされてわらうなんて

わらってないよ

いいから お金稼いで ごはんくわせろ

いまつってるだろ

湖のぬしか

さあ

笑ったら尚志は、ぬしはうまいか、焼いた方がうまいか
なまがうまいか、だのいう
そんなのいったら
釣れない、決まってるだろう、
ぬしだって駆け引きなんだ
たべるたべるなんていったら
近づいてこないぜ

そうしたら、尚志はだまりこくった

なあ、尚志
たしかにたくさんのお金もものもないけれど
こういう時
また格別じゃないか

ごはんくれ

ほんとうに、おまえはそれだけだな

んはは ははは

笑っていたら、ガサガサガサガサ音たてて
ガサツがきて
ガサツは酒くさくて
どしっと僕の隣に座って
尚志の顔をもしゃもしゃもしゃもしゃして
尚志が ぎああ、といやがった

「逃げやがって」
「ガサツは、声がおおきいな」
「なんだそれ」
「はは、いま、ぬしをつってるんだ」
「釣れんのかよ」
「さあ、どうかな」

そのまま、隣で、
酒くさいのに、なお酒をのむ人と
もう、あきて眠りそうになっている猫と
おかしくなってくすくすしているぼくとで
半刻も、湖のひかり 揺れるのを見ていた

「良い話じゃないか」
ガサツがいう
「悪い話だよ」
僕が笑う
「いいから、ごはん」
尚志は、ごはんが食べたいんだ

おかしくて、おかしくて、笑っていたら
「まぁ、それでもいいか」
そう、ガサツがいった
いったあとで、
そっぽをむいた
 ちょっと、ほっとしたように見えた

尚志は、ごはん早く釣れよ、っていった
(だからごはんなんて言ったら、つれないって)
2011-03-26 12:25:35