おおかみ

山のさきは
たしかに雪が降り積もり
しずかな、しずかな寒さで
おおわれていました

その雪山で
おおかみにあいました
おおかみは金の眼の片目を
とんとつぶされておりました
それは、人がされたのだそうです



でんでこ
でんでこと
たいりょうの太鼓が
鳴り響いていました
もうすぐ、お祭りなのでしょう
そう、いいましたら
おおかみは
おれは、あんなに恐ろしいことはしらない
そう、いいました
わたしも、そう
あんなに恐ろしいことは知りませんと
申し上げました



ひとはしかし
いつでも長く
自分というものからでた
罪を、隠していけるものでしょうか

おおかみはあーああーああーああ と
大声でなきました
わたしは おーおおーおおーおおおお と
なきました

きみ、 なにをつげましたか
ことばでも おこないでも なく
なんのおもいばかり
あたえていましたか
 そとの せかいに

きみ そのおもいが
もしも きみのため
人に痛みを与えるものだら

きみは いつか つぐなうでしょう

 ええ なにでつぐなうのでしょうか

ええ きみ
君の生き方で 君は君を
償う日が くるのです

 おーお おーお おーお

たいこがどでんどでんどでんと
鳴り響いていました
その、いまにむかって
沢山の善良なる命が生まれ
善良なきもちがうまれました
けれど ひとは弱いのでした
そしてひとは
けがれてしまうのでした

その穢れは 礼でしか
 つぐなえないのです

いつか私は
私を償うんでしょう
私の生き方で 私を償うんでしょう
それは 生き方を変えるということです
自分を変えるということです

 わたしのわだかまり 私の業
 わたしのこしつ

 あなたがひとに 与え続けた思い
 その思いは そのまま
 わたしへの 問いとなって
 わたしへの 償いをもとめはじめる

なにを 外に だしましたか
 こえでも ことばでも こうどうでもない
 なんの おもいを 外に だしましたか

 おーお おーお おーお
 空のたかく たかいところで
 太鼓の音を吸った
 その音がうずまいていました
2011-08-02 11:15:55