つきあかり

まつの住んでいる町は
少し広くして、少し狭い
おいしいグザイを売る店まで
行くのに30分はかかる
だけど歩けば、
必要なものはたやすく、
その上少し安くそろう
そんな風な町だった



甘くておいしいレモンが切れたので
グザイを買いに歩き始めたら
途中で金色の玉を
何度か青くうすい空になげて
ゆうゆう遊んでいる
ソバにであった
ソバは買い物かごを背負う松に
「あ、まち?」といって
勝手についてきた



おひさまはすこし熱めにとろんとしていて
ソバは好き勝手な話をしている
おれは、すぐ
何もかもを忘れてしまうけれど。
そう、いう。

お前が俺の庭のバラ
おったことにされて
おわれたじゃないか
あれ、おれが犯人なんだ
ごめんな

うん、と
松は言う
うん、謝るの、3回目だね



ソバが上着のぽけっとから
シャボン玉の容器を取り出した
あかい、ちっぽけな容器
ゆっくり歩きながらふこうとして
無理だったらしい、とまり、とまり
松のうしろから
シャボン玉を ふう、ふう と
ふいて飛ばして
また早足にかけて松に追いつく

青い空は
まるで海に沈むように
ゆっくり、うすいピンクにのみこまれ、
これから、赤、紫、
群青にかわっていくんだろうと
松はどきどきした

ピンクとブルーのさかいめで
はやあがりの白い月がぷかぷか
気持ちがよさそうに浮かんでいた
もう雲は、ずいぶん細かい

「秋になると
夏にあがったおいしい雲を
はむしがはむしはむしと
食べていってしまうのさ」
松の目線をおったソバが面白そうにいう
「はむしはむし」
松は、ふふ、と笑った


こんなに美しいのに
はやあしに
人々が生きすぎる町の上で
空は置き去りにされていた
だから、松は何かさびしかった




道の途中で
手紙を拾った
はがきだから
つい、読んでしまった

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わたしが ほしい のは

 すべての ひとが

 こころ みたされて

 ゆたかな せかい

いま こころ

 ゆたか ですか

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松は、ふふ、と笑った
ソバがどうしたの、というから
なにか恋文だよ
そう答えておいた




レモンを買って帰る途中
空を見上げたら
もう群青色で、
そういう深い色の中に
美しく輝く金色の星が見えた
ソバが小さく、おお、と叫んで
松はもう一度、ふふ、と
笑った
2011-10-01 23:34:28