老婆

その老婆はいつしか私の隣に居て
私ががなりたてるのを
ただ静かに、見ていたようだ

やがて演説は終わり
ひとり、ひとり
興奮冷めやらぬ顔をして
観客が去る

私も満足しきって階段を下りれば
その老婆が私に近づいてきて
いった

すこし愚か者のおろかな話を聞いてください
つまるところ
あなたのいいたいところを
りかいしました
しかし理解しましたが
私は知のないものですので
万が一、まちがっていてはと思うのです

私は目がなく、耳もない
ですがあなたの声は聞こえました
多分、こうだと思います

わたしのほうがすごい わたしのほうがすぐれている
わたしのほうがすごい わたしのほうがすぐれている
わたしのほうがすごい

私は愚かで知のないものです
ただあなたの言葉
その声のひびき
ほっするところを
見るばかりです

しかし思うのです
言葉の意味より

あなたが
それを使うことにより
人や世界に
何を望み、
なにを欲したのか

どんな思いを持ち
なんの思いを
与えたいと望んだのか
その方が
大切なのでは、と

なぜなら私のような
見ない 聞かないものには
言葉の意味は、
文の成すことではなく

だした者の
ほっする心、与える心
その姿をうつすからです

老婆はすこし笑った

 おきをつけて

何かを言おうと
口をあけた瞬間その老婆は消えていた
まるで、私が
幻を見ていたのだと
いうように。
2011-10-10 13:19:48