夕日の迷子

まっかな夕日の中でふと
迷子になっているように思い
手を探り
誰かいないかとおもったけれど
たくさんの人はいたのに
だれも、傍にはいなかった

てええんてええんと
たくさんの鐘が響いていて
ああ、そうか
夕刻なのだと思った

誰も、いなかった

ただ、たくさんの人が行きかって
たくさんの声が聞こえた

おさかながやすいとか
りんごがおいしいとか

私は名前をなくしたようだ
そう、思う
なにせ、迷子とは
心もとないもので
あまりの不安
名前が無いように
思ったのだ

名前が無い、というのは
呼んでくれるものが
だれもいない ということで
呼ばれることのないものは
ひたすら 居場所がなくなる
だから、
自分がいない寂しさを抱えている

ふと、気づいたら
道路わきの段ボール箱の上に
ぼろ布をまとった男とも
女ともつかないものが
まるでかすれた声で
叫んでいた


―― おうおう おうおう

あたたかに照る夕日の中で
ふと、ようやくわかったことがあって
やっぱりそうだったんだ
とも 思った

一番
はじめに
殺したものと
殺されたものがいて
そうだったんだと
思いました

私たちは罪の中で
迷い子のように
自分が正しいとわめきながら
うすうす、自分が悪いと思いながら
嘘をおもい、嘘を覚え
自分にたいして 一番はじめに
嘘をついてから
人をせめ 自分の正しさを
肯定する うそをついてから
 嘘をつくようになります

わたしは、あなたの監視者ですか
もちろん あなたの監視者でした

そして、アベル 殺されたものと
カイン 殺したものは
流転し カインが罪を守り
贖罪します

私は重大な罪を覚え
罪をせおっていたのを
わかっていたようでした

 きづいたものはみな
 監視者、そして
 わたしこそが
 罪をせおう
 カインであることに
 気がついただけです


一番
最初に死んだものが黄泉におくられて
それで、その方が
罪を決めるものになりました
その人の名はアベルでしょう

カイン 贖罪をもったものは
弟のセトを 罪に落とさないために
罪を 守るものです

だから わたしたちは
わたしたちと同じ負い目を持つものに
復讐、あるいは嫉妬をもって
殺されると
七倍の復讐をもって
報われるのです

罪に気づいたものが
罪に気づきたくないものを責め
気づきたくないものが
罪を封じるために 叫ぶものを殺す
さながら それは
カインの心
そのままではありませんか

ここは地獄ですか
いいえ、ここは

そこで、名前を呼ばれた
呼ばれたら、あ
そんな名前なのだと思うことが
ちゃんとできるような名前だった

ありふれた
平凡な名前で
でも、ちゃんと
呼ばれた

ふりかえれば
私の好きな人と
私の家族がいて
私はちゃんといた

周りにより私になり
私はまわりのひとつになる
けっして、忘れてはいけないね

呼ばれる名前を
もたなければいけないね

そう思いながら振り返ると
ぼろ布の人間はいなくなり
木の葉が風にふかれていて
なにか、そのかさかさという音が
かすれた声のように思えて
あ、あの人は
声だけを残していったと

そう、思った



―― 人類の
罪の動機は
嫉妬でした
2011-10-28 17:25:24