接吻

まっすぐな空のした
木々の中のすきまから
かえるたちが、話している

―― 生まれる時に
一生分の痛みを
あじわった気がした
いたくて
いたくて
これがぬけたら
ああ、ようやくおわって
それで、きっと
幸せになれると。

げこ げこ

―― いつも 教えられない
愛、なんて
愛することは いいことだ なんて
だれだって きっと
わかっていて
ただ
あいしかたを いえないまま
「愛はいい」しか
いえないように思えた

―― あのさ こどもに
「これはいいことだ」って
いえるよ だれだって
「その仕方」を
つたえるのは
とても むずかしい


また、どこかで
小さなさえずり
かえるではない
ふたつの鳥が
うたいながら
なきあい

―― ずっと、私以外の話を したかった
そして お褒めにあずかりたかった

―― 何を見て
どんなふうに生きても
わたし は こえられないのよ。

―― 私は 私の話しかしない
私が きらいだった
それでも 無理だった

―― 鳥は鳥にしか なれないのよ


空から
星のかけらのような
小さな雨が
ふりはじめる

ぽ、ぱ
ぽつ、ぱ
ぱつ

街灯のあかりに
ひかりながら
あまつぶたちは
ちいさなすきとおった姿を
ほこらしげにみせて
落ちていく


―― すがりついたら 飛べないのよ
手を離さないと 飛べないのよ

―― すべて
手の中に
おこうとしたら
飛ばせないのよ

―― ボール

―― てを はなし それを
じゆうに させるのよ

鳥が ちりりり と 泣きながら
とびすさった


やがて、大量の雨。

―― 泳いで見せるしかないのよね

―― ええ

ふたつ、ぼちゃん ぼちゃんと
音がした。
2011-12-11 16:04:05