虎歌

まくろい渦の中に
こまかいきらきらとした白い光がみえ
それが笑いながらすわれているので
あれはなんですか、と
きいたら
虎はうすうすわらいながら
あれは、くらげです
そういう

そらは
びかびか
いなびかり
赤い実が、いくつもいくつも落ちていて
落ちた木の葉は
青く青く、黄土色に
くさりかけ
空の方は薄暗くまた青い

ぬるぬるとした
なまぐさいにおいがただよい
私は ふと
歌いはじめる
それは こえにならない

言葉だけで はなすわけではないし
耳だけで きくわけでもない

虎はうすうす笑いながら
私の傍を
駆け抜け
あちらにおいしいものが見えましたから
食べてくる、という
お気をつけて、といったら
どちらが気をつけるのでしょう

そう いう

歌は歌として
ただ透明な
ことばにならない重なり
積み重なり
深く渦を巻いて
ちかちかと瞬く
黒い渦の中に
飲み込まれるくらげのように

紫色、黒く深く
青い青い世界に
気がつけば
おめんをかぶった人が居て
ましろくみえるその人は
私の傍に来て
何にかをいった

きりきり さらげ

不思議と 意味のわからない言葉で
それは多分 厳しいように思えた
のろい か まじないか
いのり か ねがいか
似たようなもの

過干渉 触りすぎて変えられそうになると
すこし おそれる
だれって あなたは
あなたにならねば
わたしに なってしまっても
困る

ちから と いうのは
きっと 思うような強さ ではなく
ひとり というように おもう
だれ と いて も

言葉が消えていくのを私は見ていたし
それがいけないことか いいことか は
わからなかった

たくさんの物事が見えたが
その物事の とらえかたによると 思えた
多々 悪くも 良くもあり
悪いところを抜き出せば 責めることさえ
たやすい

 ―― ひとのなかの 愛を選ぼう
 
誰かが歌っている

しぼりだしたこえは
あまりの 闇の
濃厚なあつみに
どこにも響かないようで
だけど 闇の中に
たしかに響き
ああ、
響かなければ 歌がなくなる
そう 思った

 ひびきがうたなのだ

 ―― ひとのなか
 ―― ぜんりょうを おもいだし
 ―― 忘れているのでしょう
 
 ―― あなたが あなたの善良に
 
 ―― おもいだせたとき
 
 ―― 私は 救われた

そう と 思う
そう、救われたんだ 確かに

ひと
あの人の中の みずからの善良を
みずから あらわせたとき
わたしは 救われたんだ

私 人が救いだった

 ―― だれ

そう きいても答えがない
私は名前があったので
それを適当につける 自分に
名前をなくしたら
かかわりが消える

 ―― 善良も 悪意も
 えらぶことができた
 
 良く みようと 思えば みえた
 わるく みようと おもえば みえた


 ―― 


最後は答えもなく
ただたくさんの闇が
渦を巻いて
だけどたくさんの星星も
まるで
笑うように歌っていた
だから
私はその中で
歌っていた
2011-12-13 14:54:48