人魚

前方から
まあまあとした音が流れている
暗い湿った路地
八百屋がポツリとたちすくみ
他には崩れかけた廃屋ばかり

なすでも買おうかと
八百屋を覗いたら
たいそう長い、白い髭のじいさんが
あれは人魚でないか、と聞く

人魚は、地の上に出られんて
地の上、こいしうて
曇りの日はああしてなくのだ、と

まるで、人魚を
みたかのように

耳の奥に、耳鳴りのように
ざあざああと
雨粒がとたんを叩くような音が聞こえ
急に辺りが暗くなり
にわかに
ずべ、べちゃり
ずべ、べちゃり、そう
なにかが擦られるような音がして
みたら
真っ黒いずたのようなものが
はいずんでくる
そのまわりに
黄色の蛾が
やたら、しずかに
ばちばちと
またたいている

そいつがなにか、いう
ぐれんぐれん
おれぁみたいなやつが
沢山いて
くらいあっている
じゅんぐりに
あれは、おれなのか
ぐれんぐれん
じゅんぐりに

暗くはないのに
光が吸われたように
その全てが
うまくみえない

八百屋を見たら
彼は目を開いたまま
笑った

罪人ですよ
周りに、獣がおるでしょう
流れた血をなめるのです

償いの業に
延々
いかされておるのです

そう、いわれた
2011-12-29 12:56:25