すず

そのとき、確かに
なにかがクマリと
おとをたてた

竹藪のなか
真っ直ぐに空に延びる竹にかこまれ
はて、と
見上げたら
真ん中のほうに
優しいお月さまがいて
かけているようだったから
大丈夫でしょうか、と
お聞きした

そうしたら
くすくすわらう

私からお聞きしたのに
おどろいてしまって
お月さまは、
笑えましたのですね、あら
そういって前を見たら
猿のお面に
白いシャツをきた方が
うふふ、うふ と、笑っていた

声も出ず
立ちすくんでいたら
彼はいう

いとおかしい
風が柔いようですね

そういえば
笹の葉は、かすかにさんざめいて
さわさわり、おとをたてている
やわらかな夜の音

何をしに参ります?

猿のお面のしわが
やわっとゆるみ
あ、このかたは
猿のお面ではなくて
お顔が、猿なのだと
おもう

妙な案配で
こころが、わずかに
ふるえる

いえ、おつかいにまいります

そういったら
彼は笑って
お気をつけて
こんなばんは
化かされないよう

人かと思えば、あなた
あなたかと、おもえば
かげ

あなたの影に
ばかされないよう

急にぶうううっと
風がふきすさび
笹の葉が
一斉に音をならす

そのおとが
星の瞬く音とにていて
笹は空と仲がいい、そうおもい
また、目を開けたら
そこには誰も居なかった


小さな音
すずをならすような音がした

幸せに、ひたすらに、まどわぬまま

そう、きこえた
2011-12-29 20:12:27