白い獣

青いすんだ湖のほとりで
白い獣はりんごをとりにきた

落ちているりんご
やわらかい甘い
おいしいの

そう思いながら
ふんふん、かいでいると
おんなの人がいて
それが、獣を見ている

りんごをとるのを
怒られるかな、なんて
おもいながら
また、ふんふんと
かいでいると
女の人は
どこかにいってしまった

ひとつりんごが落ちていたので
それをはんで
もむもむしていたら

 ―― ほら、 ほら

そう、女の人の声がする

 ―― ええ、わかるけど

違う人の声もする

 ―― ほら、りんご 食べてる
 
 ―― そうだねぇ

りんごをしゃむしゃむ噛みながら
甘いとおもう

夕陽がくれてきて
空の色が、ゆっくり濃くなる
雲がきんいろにそまり
青、紫、群青、黒
わずかに早上がりの星が
ちかり、ちかりと
きらめきはじめる

まだりんごをたべようかな
どうしようかな、
そう、考えていたら
二人の人は
獣に決して近づかない距離に座り込んで
小さな話をしている

よく聞こえないが
囁きから、あたたかなものとおもう

小さいリンゴを
2つばかりくわえて
あいつに持っていこうと思う
小さいけもの
小さいあいつ


―― たくさんの冷たい雨がふる日に
気がついたら
ねぐらにもぐりこんでいた

言葉の通じない あいつは
ただ チャンちゃんと鳴いたり
私を噛んだりした

尻尾にじゃれついて
遊びすぎてへたりこんだり
私の背にのって
ちゃんちゃんと
ないたりする

雨がおわっても
あいつは私と共にいた

りんごや梨や
どんぐりや魚
もっていったら
うれしいようで
一緒に食べた

はなしは、いつも通じない
それでもなんとなく
あいつの気持ちがわかって
いま、うれしいんだとか
いま、ふきげんだ、とか
どうしてなのか
わかっていくことが
うれしかった

―― あしたは
天気がよさそうだ
やわらかい草が
たんと生えるはらっぱに
あいつを誘おう



夜を見上げたら
かけた月が
きらきらと、浮かんでいる

冷たい風が
吹きはじめ
真白い鳥が
空を横切って
るふ、るふる
るふ、るふる
そう、ないていた
2012-01-16 10:00:00