クラゲ

海の底まで見透かせるような夜
塩辛い波のうえに
氷るような月が
きらんきらんと冷たく光る

月明かりのちょうど下に
クラゲがひとついて
それが白い花びらをはんでいる
なにをしている
となりにいた大きな魚が聞くが
クラゲはこたえない
魚はぶかぶか
あわをふいて
また、なにをしているとたずねる

花、
がむがむしながらクラゲがいう
花をたべている
はな、と
魚が不思議そうに聞く
クラゲは
のみこむに忙しく
こたえない

水面に泡がういていく
細かい泡
大きな泡

海の向こうに灯台があるらしい
たまに眩しいひかりが
ボウー、ぼうー、と
重ぐるしく深い
音と共に流れてくる

ようやく花
とかし終わったクラゲが
おれ花になりてぇから
あのタコの婆に聞いた
陸の美しい花になりたい
どうすりゃいい
婆はこたえた
花をくわなけりゃならない
花は陸のさきにある
取りにいくには
かわくこともあるが

クラゲがガブガブわらう
魚はクラゲから目をはずして
少しかんがえる
クラゲは気まずそうに皮をひきつらして

くいつづけたら
はなになれる
花になったら
蜂や蝶とあそぶ

海辺で乾いたクラゲは
おれみたいに
花になりたいなりそこない

魚がくちをあけて
数回パクパクとあわをふいて
そういえば、お前はなんでうまれるんだ
私たちとは違うようだ
海のかたまりのようにおもえる
そう、聞く

クラゲはぶかぶか笑い
笑いながらいう

そんなことはしらない
気がついたら
クラゲだった

泡はぶかぶか浮きながら流れ
銀色にひかりまたたく
月明かりはしずかに
海にしずんでいく
2012-02-04 21:25:56