白猿

柔らかく細かい雨が
音もなくふっている
銀色の雨

澄みわたった空の右のほうに
ましいろい、かけた月が
きらきらひかっている

たくさんの波紋をえがきながら
水海に雨がふりそそぎ
水面の月をゆらしている

くらい水の底から、ぼつぼつと
しんがわずかにあかい
白い花がさいている

のぞきこむと
黒く冷えた水底に
ゆらめきながら
赤と白の鯉がいる

尾びれやらをけんめいに動かして
泳いでいるのがわかる

もっとずっとしたのほうに
チカチカと光るなにかが見える
小魚だろう

水面の
銀色の月がゆらんでいる

向こう岸に白い猿がいて
猿のようで人に見える
人のようで
やはり、猿なのかもしれない

真っ白い、瞳のない目で此方をずっとのぞいている

―― しずかな月夜ですね

そういわれ
ええ、と
つい、微笑む

―― 参りますから

―― え、

―― しずかな夜ですね

水底の魚が、ひとつはねる
ぱしゃん
しぶきがまるで真珠のようだ

真っ白い瞳のない目で
また、猿が話す

―― 参られますから

―― え、

猿が上をさす
月明かりのした、
眩しいほど虹がかかっている

―― 蓮の花をひとつ下さい

そういわれたから
水海にはえている花をひとつ手折ってほうると
器用にくちにくわえて
猿ははしりだす

―― 月明かり、チカチカ よい夜です

そういわれる
2012-02-03 22:54:55