芋虫

今日は彼女の誕生日で
くまのぬいぐるみとバラを買って
桃色のリボンで飾り付けて
わきにかかえてもっていったら
彼女は部屋中に桃色の花を散らばせて茫然としていた

どうしたん、そう聞いたら
花飾って陶酔しようと思ったら
虫がいたん、ほら
手にした教科書でさす
確かにつぶれた芋虫がいて
黄色い汁をだしていた

……、芋虫、はちに殺られてるの
見たことあるよ
とても痛そうだった
苦しみ抜いて悶えて
くわれた

そうしたら、あはは、そうと言って
彼女はテッシュで芋虫ぬぐい
ケーキ作ったよ
食べようといった
うん、と答えて
台所にてこてこ歩く彼女の背中を見ながら
手を洗うだろうか、それが少し
気になる

空はうす曇で
おたまじゃくしのようなものが
雲のあいまをぬうように飛んでいる

目を細めると彼女の部屋に
金色のふちがあるドアが見える

なに、見ているの

そう聞かれたから
ああ、うん
ドアがあるんだ
そういう

豪華なドアノブが
触れられそうなほど
固い質感をもって
目をひらくと
もう見えなくなる

いやだな、いつも
変なものばかり
見るんだね
そう笑って
彼女は机にケーキをおいて
台所にひきかえした

え、と思って追っていったら
声を出さないで肩を震わせている
ないているらしい

……どうしたの?

聞くと

……なんでもないの

そう答える

鼻をすすりながら
芋虫辛かったかしら
笑いながらいう

……お墓でもつくる?

少し呆れながらきいたら

もう、ゴミ箱に捨ててしまったし
そう答えてから
鼻をかんで、そのティッシュもゴミ箱に捨てて
笑い顔で、ケーキ食べようという

うん、と答えてから部屋に入ろうとしたら
背中越しに、ぽつっと
ドアを
こっそりあけて
いかないでね、そういわれた
2012-02-07 21:00:00