うらら

台所で猫人が歌っている
うらら、うらら
うらうらうらー
うららーうららー
うら? うら? うら?

だんだん、らが
巻き舌になってきて
うるぁあ うるぁああ うるぁああと
叫ぶように

ねえ、うるさい
しずかにしてよ
そういっても
猫人のチャンスはごきげんで
まっくろいしっぽを左右に揺らしながら
聞こえていないふりで
うるぁあああ うるあぁあああ うるぁあああ
そう、なきわめく

聞こえているのはもう分かっていて
だって、耳がこっちをむいて
ぴくりとしたもの

「幸せなら手を叩こうを
疑問視しています
たたいてどうする……?」

目の前の赤茶けた鼻のナシがいう
ナシの目は金ぴかだ

うるぁああうるぁああ らあああああ
なにがおまえのしあわせ!!! わからぬまましぬ!!
それはできねえ約束だ!!! わすれるな夢!!!
なくすな愛!!!! そんなのはなしだ!!

うぎい うぎい

なんだかパンクな歌を歌いながら
チャンスがわめいている

「うるさいよ」

みかんをむきながら叫んでも
調子に乗ったらしい
チャンスは泡を吹くように
エアギターで踊り狂ってる

 うるぁああああ

あいつうるさい

ナシが困り顔で言う
うん、うるさいね
そうこたえたら
耳をパタン、ぱたんと
ふたつふたをして
コタツの中にもぐろうかどうしようか
考えているらしい

 のおおおおおっ!!! のおおおお!!!

チャンスはいよいよ楽しんでいる

「幸せなら手を叩き
たいどでしめそうとのたまう
強制するわりに
意味のない
……疑問視しています」

ぶつぶつ、ナシがいう
外は寒むそう
さっき電話であの人が
もうすぐ帰ると、連絡をくれた
台所の煮物は
くつくつとあったまって
みんながそろう頃には
きっと食べごろになる

みかんをひとふさ口にいれて
今日は、よう眠れると良いね
そう言ったら
コタツに顔を突っ込んだまま
うん、あいつ
よるもうるさい
いびきかく
そういう

あはは

そういえば
庭の梅が
咲いていたよ
梅が咲いたら
春、くるのかな
ナシが言う
ぼくはもう
さむいのも
うるさいのも
あきたから

そういう

ただいまーと、玄関で声がする

チャンスが
きゃあああ!!お帰りがきたよおお!
と、さけぶ
お帰りーーと答えてから
ナシに寝床をわけようか、ときいたら
いいえ、あいつと寝るんです
そういわれた
2012-02-07 18:44:10