孔雀

きんぞこ公園の地下には
名前のない水族館がある

こしてきたばかりの三条に
あんないついでにいってみたら、
ほどよくすいていて
観客は笑いながら歩き回っている
スーパーの紙袋をさげたおばさんと
いぬ、ねこが二匹(たぶん、デートだろう)、ひよこ数匹
それと赤いぼうしをまぶかにかぶったおじいさん
それだけだった

公園のかたすみにある
ちいさな螺旋階段をおりて
何十メートルもしない
学校のプールよりせまい
楕円のくらがり

沈みこんで冷えた空気に
わずかに錆びた鉄のにおいのする

誰が管理しているのか
適当におかれた
ちいさなたくさんの水槽には
まいにち違う魚がはいっている

今日は出目金ばかりだ
あかでめきん
くろ出目金、しろ、金、銀

それぞれの色にわけて
あつめられ
ぷよぷよ泳いでいる

かべにひとつだけ大きな水槽がある
透明でやわらかい青い水に
白、紅と金色の羽をした孔雀がいて、
暇なのか、たまにいなないている
羽のいろは青ににじんで
いつもかすかに
水にとけだしているように思える

孔雀のうしろに
梅がいけてあって
最近咲いた

孔雀がうごくたび
水がうごいて
ほんやりと、花も孔雀も
たゆっている

あ、きれいだね

それを見て三条がいう
短い髪の毛を手でかきあげながら
それから、こまったように、聞く

孔雀って、みずの生物だっけ?

さあ、でも
こいつはそうなんじゃないかな

こたえたとたん
孔雀がふりかえり
三条をみて、
ばっと白と、紅と金色の羽根をひろげた

お、あっぱれ
青にゆれる赤、金、白
孔雀は金色おびた緑色の目で
三条をじっとみている

誰も彼もだまりこんで
しんとする

ただひたすら
孔雀の羽根をみていたら
三条が、ふ、という

羽根をひろげるのは
求愛ではなかったかな

ひろげた時のようにとつぜんに羽根をしまい
孔雀はまた、なんでもなかったように
金色の足でゆっくりあるきはじめる

すこししてから
三条がふるえるような声でいう

なあ、孔雀に求愛された、なんて
だまっててくれよ
へんだから

うん、いわないけど
変なのかな……

三条はその出来事がいやだったのか
それから三週間ばかり
水族館にも、公園にも近づきたくないと
誰がさそってものらず
みちさえさけて歩いていた

けれど、しばらくすると
たまに夜に孔雀と三条が
水族館だの公園だので
遊んでいる姿が
目撃されるようになった

ぼくも一緒に遊びたい、と思っていて
いつ、いーれーてーなんて
言おうかとたくらんでいるが
邪魔かなあ、とも思う
2012-03-18 09:56:00