虎がいた
サーカスから逃げてきた草食の虎で
銀に見間違うばかりの白い毛並みをして
エメラルドグリーンの竹林にすんでいた

竹林は夕陽がさすと金色になり
朝日が昇ると桃色に光り
たまに雨がふると
雨粒が銀と緑いろにかがやく
虎は大変気に入っていた

近くにいる日無比無が
虎を見つけて、それから餌をくれた
日無比無は、あまり人間が好きではなかった
自分も嫌いだった
人間だから

僕は何で人間なんだろう
日無比無は、たまに虎にいった
空っぽの声で

虎はちらりと日無比無をみて
なんにも気にせず毛繕いをした
あかいやわらかな舌で
ペロペロと自慢の白毛をととのえ
うなってねむった
日無比無は
その虎の様子をみてから
腹毛に顔をあてて
じっとうずくまってみる

虎の心音が
とどん、とどん、と
なみうっている
虎は生きている

おきていたのか、
ふと、虎がいった
おまえ、太陽を見たことがあるか
日無比無はこたえなかった
虎の心音が
どとん、どとんとみゃくうつのを
ただ、耳をすまして聞いていた

晴れているときは
みえないんだ
まぶしすぎて……

なぁ、曇りの時
しろいしろいなみうつ雲の
ふと、ほんとうに白いところ
光るところがあるじゃないか
あれが、太陽なんだろう

上の方にすんだ空は
真っ白い空気を泳がせ
竹林に霧が出てくる
すうっと、すこし冷えた風がはいり
日無比無はもうすこし顔を虎に押しあてる

すませばすますほど
どどん、どどんという
虎の心音が
日無比無のこころに響いて、
はいってくるようだった

雲にさえぎられていないと
太陽は、みえないんだ
俺はすこし寂しいよ

虎がぶつぶついう
なぁ、お前
また雲がたんとでたとき
あの丘から
お前をつれていってやるから
一緒に、太陽を見よう

雲のうしろにある
ひかりをみよう

なぁ、お前……

日無比無は虎の心音を聞きながら
じっと、耳を澄ましていた
2012-03-18 18:48:37