くさりば

まっぐろい影のなかに
たくさんの木の葉が
くさりおちていて
妙な臭いがする
――けものでもしんどりますかな……


たんあさんはそういって
木の葉集めで木の葉かき集める
ちぎさんは
さあねえ、いもでもくさっとるかもな……
そういうて
たあさんの
よぼよぼした手のひらをつかむ
たあさんはすこしだけ動作をやめ、
ためいきをついて
また、木の葉をあつめはじめる


――考えてもむだだいうのに
どうしてひとは
考えますかな……


ちぎさんはいう
たあさんは微笑みをうかべて、こたえない
雨上がりの庭は
やわやわとした光に満ちて
たあさんの手のひらを
ちぎさんははなさない


ふしぎなものを
ちぎさんはたまにみて
たあさんにいう
たあさんはそれを聞いても
誰のようにも
うたがったり、わらったり
しんじたりしない
ただ、しずかに笑っている


ましろい蝶々が
ひらひら、ふらふらと
おぼつかないとびかたで
黒い地面をすれすれに飛んでいく
たあさんのどろんこの長靴にとまり
また、ひらひら、
飛んでいく……


うまれたばかりか
どうも、はねが透けて見え
たよりない
たあさんがいう
むかしね、
おばけのドラマをみました
いまから
おまえの考えたものを
こわいものにしてやる
そう……
それで、みんな
考えないようにするんです
だけどもね


考えないようにするって
出来るものでしょうか
感じるままにするって……
そのほうが
よほど、こわい


たあさんが
くつくつとわらう

ちぎさんはむごんで
たあさんのてのひらを
きゅっとする


すきは
つたわりにくく
わかりにくい
きらいなんて
すきの
かわりもの


どうして
ひとは
わたしと
ひとを
まちがうのかね……


たあさんが
ちいさく
また、うづくように
わらう


ちぎさんは
すこしだけ
とまどいながら
うん、とおもう


うん、……


ふいに
ちぎさんの胸のなかに
ふかい
どうも、
どうしようもない
そんな
おもいがわいて
ただ、とまどう


ただ、とまどいながら
自分ではない
ひとのてのひらを
握りしめる
2012-04-27 14:52:35