かめ

まっしろい
ちらちらと光る雪が
空から降ってきた

ちいさな山のような
亀の背には
深緑色の毛が
たくさん生えている

その上に、雪がおりて
とけてきえる

下にある甲羅は
ほんのりあたたかく
亀の心音が
ひびいている

どお どお どお

あなたは亀でしたっけ
聞いても
亀は何にも答えない

ただ、真っ黒い海を
むごんで
ゆんぐり、ゆんぐり
進んでいる

紅い魚が
たまに亀の隣を
音もなく通り過ぎる

ふと、亀のひたいに
亀には似合わない
しかくい、獣のような耳があることに
気がつく

海水でぬれて
ぺったりした毛並み

ぐう、ぐうと泳ぐたび
大きなひたいの
ふたつの耳のあいだから
海水が流れおちる

たまにピコピコと
左右に動かして
水を払っている

まるで恐竜のようですね……

亀の目をのぞきこむと
金色の中に小さな黒が
ぽてっとあって
それが丸くなったり
大きくなったりしながら
ただ
一心に、前を見ている

こうらの草原
やわらかな草のあいまに
たくさんの小さな花が咲いている
しろ、あか、きいろ
細かい花は
亀のおよぎにあわせてゆれて
見ていたら、その影から
ちいさなちょうちょが
ひらひら泳いでわいてきた

上を見上げると
やたらに赤い赤い月
真黒い天に
ただ、ぼおっと光っている

亀はどこまでいくんだろう
(亀なんだろうか?)

こおらの下はあたたかな脈拍
どお どお どお とした心音に
耳を傾けているうちに
眠くなり、横たわる

2012-05-01 09:18:25