ヒノカワ

青い青い空の下
こまかい銀色の雨が
さあさああと眠り歌のように
音をたて降りそそいでいる

小さなお子は
まんまるい手のひらで
赤いビニール傘をきゅうっとにぎって
ビニール越しに見える
水の流れをひたすらに眺めている

ふ、と庭のほうで
どお、どんどお どお、どんどおと
おとがして
振り返るとたくさんのかえる
緑、青、黄色、黄緑
たくさんのかえるが
ちいさな手のひらをつないで
おどっている

かえるたちの前には
雨にけむりながらもえる
赤とも金ともつかない炎が
音もなくゆらいで
そうしてかえるたちは
うたいはじめる

 ど どお だ だあ
 ど どお だ だあ

雨音に響く
喜びのような歌声

小さなお子が目を見張って
雨をてりかえしながら
光るかえるたちに
きれいよな、とつぶやいた

そうしたら
その小さなお子の隣に
傘もささずに
立ちすくんでいる人がいるのに気がついた

お子はぼうぜんとその人を見つめる
その人はお子を見て
ふ、と、笑う

それからその人は
自分の指から金色の指輪を抜いて
隣にはえていた
青黒い笹の葉をひとつとり
笹舟にして、その指輪をのせた

よく見たら
かえるたちの取り囲んでいる炎は
火ではなく
北へ北へと流れる川の
夕陽の照り返しのようだ

赤と金色をまとい
きらめきながら
透きとおり
たうたうと流れ
そこにそっと
指輪ののったささぶねを置く
大丈夫、と
その人はいう

気がつけば
火の川に
たくさんの笹舟がながれすぎさる
青、緑、深緑の笹舟
金色の川に流れすぎさり
その上にたくさんの小さなものがのっている

かえるたちは踊り続ける

どう だう どお
どう だう どお

驚きに目をひらきながら
ただ、その人の隣で
みじろきもせず
見入っていたら
その人がお子のほほをそっと撫でた

だいじょうぶ、と
その人はいった
2012-05-28 14:33:12