あのね遠いところで小猫が泣いていた
どこにもいけない猫が泣いていた

駅の中で泣いていた
空はそぼふる暗い雨だった
水色の灰色の雨だった
寒かった、小さかった
白い猫、灰色になった
雨が降っていた

あのね、猫が泣いていた

どこにもいけないと泣いていた
小さな猫
鉄橋の下でないていた
電車がごうごう通っていた
草を食べていきていた
鳥がうたれて地面に落ちた
猫が泣いていた

あのね、猫が泣いていた

真昼の草原、小さな花が咲いていた
猫は泣いて花を食べた
むしるたびに切ないにおい
猫のひげに水滴落ちる
猫が泣いていた

からからゆれる、ふきのとお
水車に似た名もない草
猫が空を見上げると
青い青い青く青く深い空
ビリジアンのキギにゆれる
小さな猫

あのね、猫が泣いていた





ここにいて欲しかった

(シリーズ: イド )
2005-07-09 00:00:00