旦那様をお殿様とよんでいた
ふざけていたのか
それともほんとうに
どこかのお殿様だったのか

ザルに梅干しあけてさ
友達の男の人と
ひとつひとつよりわけて
美味しくできたね
きっと美味しい
なんて笑っていた

お殿様も
うまいというね、これはね
なんてな

……

戦争が各地でおこっていたんだろう
お殿様は
よく旅に出たまま
帰らなかった

土用の梅干し
美味しくできたものを
かわしてようく乾かして
金の糸をハシからどうして
守護の結び、
神の守りといわれていた
結び方で
私は、彼の腰にお守りつけた

彼の代わりに
あぶなくなったら
この実がおちますように、と
祈って

……

なんどか
梅の実は、おちて
彼は怪我を背負って
帰ってきた

……

少し年を取って
だいぶ世の中も落ち着いたから、と
お殿様はお城からおりた

お殿様と、幼馴染の青年と
わたしで
ずっと
やりたかったことを
すると言って
お城は他の人に任せて、降りた

……

草津の湯に
ゆっくり旅をして向かった
なんだか
たのしくて
ずっとニコニコしてしまっていた

人の口にのぼらない隠し湯を
お殿様はみつけてきて
私と、青年と三人で浸かった
なんだかそういう人だった