死に際には
おんがえしが行われます
恩と怨、どちらもです

恩返し
怨返し

……どちらがおおいじんせいでしょうね

そう、しわくちゃな老婆がいう
いつからそばにいたのだろう

雨上がりの公園は
すべてが湿りきって
くらがるまえの
紫のけしきに
ぼやけた照明が
ひかりをおとしている

……

人の価値ははかれませんから
単純な計算をつかいます

出会った人の数、割る
よろこばせた深さ、引く
苦しませた深さ……

ゼロもあるでしょうし
マイナスもあるでしょう

老婆はてとてをあわせる
きれいな瑪瑙のゆびわが
あかく、ひかっている
うろこのおおい、とかげの
瞳のようだ

死に際には
おんがえしが行われるんだそうです
わたしからも、あなたからもです

うらまれたかず
にくまれたかず
よろこばれたかず
こうふくに、おもえたかず

……

老婆のめに
なみだがひかる
あおい、あおいひとみ

こうして、てのひらをあわせて
祈るんです
どうしようも、ありませんから

……
死に際には
嘘がつけなくなります
自分についたうそも
人についたうそも

どんな嘘も
きえはてて
どんな嘘も
つけなくなって

ねぇ、あなたは
自分についた嘘と
人についた嘘と
どちらが、ふかい?

急に老婆はわたしをみる
あおい、なにも浮かんでいない瞳
おそろしい、と
すこし、かんじる
答えを待たないまま
老婆はまた、話始める

……おんかえし
嘘のつけないまま

きっと、だれもが
いたみをかんじ
そうして、それぞれの
自分の重さを、感じるのでしょう