雨の上

たくさんの雨が降り
地は青鈍く濁る
たくさんの雨は
たくさんの音をたてて
たくさんの地を
わずかにふるわし
たくさんの雨がふる

隣に大きなおにがいて
それが、柔らかな腰布ひとつで
座り、たまにため息をついている
たくさんの雨のなか
わたしは、家ほどもある
鬼の足をみる
大分汚れ
爪はあかくちぎれ
荒んでいる

拭いましょうか、そう聞くと
鬼はわらったらしい
顔があんまり上にあるから
わからない
それで、かまわないのよ、そういう

たくさんの雨のなか
青緑のかえるが
道々のすきま
森茂みのすきまから
わきでてきて
そして、空を見上げる

たくさんの雨の上
太陽がひかる
海に沈む夕陽ともちがい
ましろいちいさなくらげのように
光だけが
ゆらいでいる


たくさんの雨のなか
たくさんのかえるたちが
きゅうに、いっせいに
なきはじめる
げうげうげう
ぐうぐうぐう
きれいだと思う

雨音、かえるのうた


めをつむると、なんにもみえない
鬼はため息をつきながら
わずかに、くちずさんでいる

めをつむると、なんにもみえない
なんにもないようで
なのに、おとが

わたしは
音に、まじり

たくさんの音は耳をふかくながれ
からだの中心に
たまりくるい
うごめく

たくさんの音が
たくさんの音を
また、呼んでいる
2012-01-12 12:15:21