白い鳥と海

ひどく静かな砂浜に彼はいる
空はなぜか薄明かるい
こまかいたくさんの星が
ちかり、ちかりと
瞬いている

海はおだやかで
深い青みをおびている
くらい波間に
ゆらゆらゆらめく
橙色のちいさな光が見える

くらげなのさ

彼はいう
くらげ、光るのさ

隣にいた白い産毛の小鳥が
あちらまでとぶには
ぼくはあと何年かかるだろう
あちらにわたったら
どんな世界があるだろうという

―― なあ、たまに
こころが凍るように
痛いときがないか

そう彼がいうと
ぼくは産まれたばかりだからしらない、
そう、ちいさな鳥はいう

―― ……

妙にしずかで
寂しい沈黙が落ちる
空はようやく夜になりはじめ
くらくなる
砂浜にはえた
サボテンと海草のあいだのような草花が
空の光をのんだのか
わずかにひかる

―― 生まれるまえはなにをしていた?

―― おぼえてないよ

―― きみの記憶は、まだ、たくさん
新しいまんまなんだね

彼がいうと
ちいさな鳥は
ちいさな声で笑い
明日が楽しみなんだ、
そういう

―― 明日も、あえるかな

―― あいたいなら、あえるよ

彼が鳥のひたいに
敬意をこめてくちづけする

―― ……

鳥は照れたらしい
無表情で、ちゅぴちゅぴいう

―― あ、いま
流れ星

――ほんとうだ

西の空に光輝く尾をながし
星がおちる

―― なにを、祈った?

―― 祈るものなのか

―― 叶えてくれるというよ

―― では、次は祈ろう

鳥はちかり、ちかりと鳴き
彼はくすくすと、嬉しそうに笑う

―― 何を祈る?

―― 明日あえるように

―― そう……

紫にうすい東の空から
金に輝く月がのぼってくる
2012-01-18 21:58:05