花の星
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2012
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ともこ
さきにふった雨が
すこしばかりたまり
黒いコンクリートを
るうるうと流れていく
どこからか
沢山の蛙がでてきて
そのたまりにたまった水で
あそぶように、泳ぎ回る
いつ産卵したのか
ちいさなおたまじゃくしまで
たうたうと泳いでいる
その上を
黒い毛でおおわれた
サイのような牛のようなものが
ゆっくり、ゆっくり
泳いでくる
顔があるところに
顔の代わりに大きな一つの目があり
それが妙な金色をおびて
ゆっくり、ゆっくり
音もなく、ながれ
歩んでくる
ふぁむ ふぁーり ふぁむ ふぁーり
うたうと、ちりん、ちりんと
音がする
この鈴はね、ともこにもらったのさ
首にまかれた桃色のリボン
それに通された手のひら大の金の鈴
ともこはね
おれのかいぬしさ
その獣がくわくわと笑う
ふぁむふぁーり ふぁむふぁーり
ともこはね
熱を出したのさ
だからね
こんな雨の日に
とびでてくる ……おおっと
そいつは目の前を
ばっしゃん、と
音を立ててはしゃぐようにとびはねた、
青黒く、おおきめの蛙を
長い舌でしゅっと巻き取る
桃色の、やわらかい舌
すぐにでて、すぐにひっこむ
ともこはね
熱を出したのさ
かえるのなきごえが
ようきくんだよ
もうじっぴきも
つかまえたからね
調教して
ならしてやるんだ
が が が
ともこはね
きっと熱も下がって
ありがとうって
抱きしめてくれるかも……
そいつはまた
くつくつと笑う
ともこはね
おれにも名前を付けてくれたのさ
だからおれが
守ってやるんだ
それからそいつは
雨水のたまった池のようなところのほとりで
すこしばかり、じっとする
水面に、たくさんの渦
蛙のなきごえがきくのは
おれたちだけだったっけ
あれ
にんげんは
なにがきくんだろう
よわったな
あのよわい やわらかな生き物
よわい よわい 愛しい生き物
それからまた
ようく考えて、
そいつは口から蛙を吐き出す
げ げ げ
10匹も吐き出してから
そいつは一匹ずつ命令する
蛙かえるぐん
めいれいです
お花をとってきなさい
奇麗なのがよいですからね
お花ですよ
蛙は一匹ずつ
熱意と尊敬のこもったなきごえで
ぐわ、 ぐわ
ぐわ、 ぐわ
げ げ
ぐわ、と
返事をする
「おかーさん
たおる、なまあたたかい……」
ふ、と
眠りから覚めたともこが叫ぶと
お母さんがとててて、と早足できて
「おねつはかっておいてね」
そういって
なまあたたかいタオルをもって
台所にとててて、と
早足で向かう
「わたしおかゆやーよ まずいもの」
聞こえるかわからないけれど
その背中にともこは叫ぶ
力が出ない
ことことと音がする
ああ、きっとおかゆなんだ
風邪なんて、なんて面白くない
おいしいものが食べられないし
鼻水は出て
頭もいたい
ゆいいつのすくいは
漫画が読み放題ってことだけ
てぇっと
ともこは舌打ちしようとするけれど
できなくて
声にだしていう
てぇ てっ
「あら!!」
お母さんが台所から叫ぶ
「あらら?」
それからとてててて、ともどってきて
「ねえ、ともこ
誰かがこれ、届けてくれたみたい
あんた、心当たりある?」
そうしてお母さんが差し出したのは
ほそめの雑草のなか
きれいに咲き誇る菜の花のたばだった
「あとね
このこ、台所にあったわ
おまえなくしたって
叫んでたでしょ」
それからもう一つの手で
黒い毛のマンモスの人形
片目のモンスターチックな人形を
ともこにみせる
「あ、ちゃうちゃうちゃうちゃん
どこいったかと
おもっていたのよ
かれはわたしを
まもってくれるのよ」
ちょうだい、と両手を差し出し
お母さんにちゃうちゃうちゃうちゃんをもらいうけて
ともこは安心したように
ベットに彼をひきずりこむ
お母さんはそんな様子を見て
笑いながらため息をひとつついて
台所にひきかえし、どうでもいいコップに水をはる
「だれかしら」と
小首をかしげながら
菜の花をさして、
「でも、きれいな花ね」と
ともこにも
こんな風な友達ができたのね
そう、笑う
Series :
中編
Tag:
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2012-05-10
14:44:56
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すこしばかりたまり
黒いコンクリートを
るうるうと流れていく
どこからか
沢山の蛙がでてきて
そのたまりにたまった水で
あそぶように、泳ぎ回る
いつ産卵したのか
ちいさなおたまじゃくしまで
たうたうと泳いでいる
その上を
黒い毛でおおわれた
サイのような牛のようなものが
ゆっくり、ゆっくり
泳いでくる
顔があるところに
顔の代わりに大きな一つの目があり
それが妙な金色をおびて
ゆっくり、ゆっくり
音もなく、ながれ
歩んでくる
ふぁむ ふぁーり ふぁむ ふぁーり
うたうと、ちりん、ちりんと
音がする
この鈴はね、ともこにもらったのさ
首にまかれた桃色のリボン
それに通された手のひら大の金の鈴
ともこはね
おれのかいぬしさ
その獣がくわくわと笑う
ふぁむふぁーり ふぁむふぁーり
ともこはね
熱を出したのさ
だからね
こんな雨の日に
とびでてくる ……おおっと
そいつは目の前を
ばっしゃん、と
音を立ててはしゃぐようにとびはねた、
青黒く、おおきめの蛙を
長い舌でしゅっと巻き取る
桃色の、やわらかい舌
すぐにでて、すぐにひっこむ
ともこはね
熱を出したのさ
かえるのなきごえが
ようきくんだよ
もうじっぴきも
つかまえたからね
調教して
ならしてやるんだ
が が が
ともこはね
きっと熱も下がって
ありがとうって
抱きしめてくれるかも……
そいつはまた
くつくつと笑う
ともこはね
おれにも名前を付けてくれたのさ
だからおれが
守ってやるんだ
それからそいつは
雨水のたまった池のようなところのほとりで
すこしばかり、じっとする
水面に、たくさんの渦
蛙のなきごえがきくのは
おれたちだけだったっけ
あれ
にんげんは
なにがきくんだろう
よわったな
あのよわい やわらかな生き物
よわい よわい 愛しい生き物
それからまた
ようく考えて、
そいつは口から蛙を吐き出す
げ げ げ
10匹も吐き出してから
そいつは一匹ずつ命令する
蛙かえるぐん
めいれいです
お花をとってきなさい
奇麗なのがよいですからね
お花ですよ
蛙は一匹ずつ
熱意と尊敬のこもったなきごえで
ぐわ、 ぐわ
ぐわ、 ぐわ
げ げ
ぐわ、と
返事をする
「おかーさん
たおる、なまあたたかい……」
ふ、と
眠りから覚めたともこが叫ぶと
お母さんがとててて、と早足できて
「おねつはかっておいてね」
そういって
なまあたたかいタオルをもって
台所にとててて、と
早足で向かう
「わたしおかゆやーよ まずいもの」
聞こえるかわからないけれど
その背中にともこは叫ぶ
力が出ない
ことことと音がする
ああ、きっとおかゆなんだ
風邪なんて、なんて面白くない
おいしいものが食べられないし
鼻水は出て
頭もいたい
ゆいいつのすくいは
漫画が読み放題ってことだけ
てぇっと
ともこは舌打ちしようとするけれど
できなくて
声にだしていう
てぇ てっ
「あら!!」
お母さんが台所から叫ぶ
「あらら?」
それからとてててて、ともどってきて
「ねえ、ともこ
誰かがこれ、届けてくれたみたい
あんた、心当たりある?」
そうしてお母さんが差し出したのは
ほそめの雑草のなか
きれいに咲き誇る菜の花のたばだった
「あとね
このこ、台所にあったわ
おまえなくしたって
叫んでたでしょ」
それからもう一つの手で
黒い毛のマンモスの人形
片目のモンスターチックな人形を
ともこにみせる
「あ、ちゃうちゃうちゃうちゃん
どこいったかと
おもっていたのよ
かれはわたしを
まもってくれるのよ」
ちょうだい、と両手を差し出し
お母さんにちゃうちゃうちゃうちゃんをもらいうけて
ともこは安心したように
ベットに彼をひきずりこむ
お母さんはそんな様子を見て
笑いながらため息をひとつついて
台所にひきかえし、どうでもいいコップに水をはる
「だれかしら」と
小首をかしげながら
菜の花をさして、
「でも、きれいな花ね」と
ともこにも
こんな風な友達ができたのね
そう、笑う