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2012
> 園子
園子
ちいさな白い花が
あまい緑の葉をせに
たくさんさいている
あわくけむるような白
:
園子をはじめてみたとき
中国のてんそくをおもいだした
小さな靴で育った足
学校の制服に
無理やり自分をおしこめるに
彼女の背はまるまり
顔は、始終、影になるように
下を向いていた
その顔が上を向いた時
パーツがくるっている、とわかり
あ、あやういな
このこは
問題になるだろう、と
すぐに思った
中学にあがったばかりの
中坊たちは
おとなの思い
すこしはらはらとした
だいじょうぶだろう
ちゅうがくせいは
もう おとなだし、という
想いを無視し
すぐに、園子をつるしあげた
陰湿ないじめがはじまった
幼いころは
いじめよりも
見て見ぬふりをする先生の背に
言い知れない
不安を感じたものだけれど
いまになってわかる
まじめな大人ほど
純粋な悪欲をもつ
子供たちを前にすれば
つぶれがちなのだ……
見て見ぬふりが
できないというのは
じっさい、
刃をいれるということで
なんにでも「刃」として
己を投下する、というのは
大人でも――大人だから――
恐ろしい
会議をひらいて
ひとりひとりと話し合う
子供が言うまで待つ
親をよぶ
すべて
どういう結果にころぶか
わからない
園子の組の担当だった清先生は
――私は正直、私でなくて良かった、と思った――
40歳手前のそこそこの先生で
ひとまず園子の話を聞き
園子をいじめている
いちばん、中央にいる強いもの
――影響力のあるもの――に話を聞き
その周辺のもの
ひとりひとりから話を聞き
それから、園子に話を聞き
自分を真ん中に置いて
何度も何度も話を聞いた
それだけで疲れるのか
彼の眼の下のクマは
日に日に
濃く、青くなっていった
:
園子が私の部屋
――保健室にいりびたるようになるまで
そう時間はかからなかった
私は、先生ではない、という気楽さから
彼女を放っておくことにした
この学校に勤めてから
教えずにすむ、導かずにすむことの気楽さを
ありがたいものだと思うようになった
じっさい
教えないですむというのは
気楽だ
私はベッドの中で
しずかな寝息を立てている園子を見ながら
たとえば
私がこの子にかかわり
何かの役にたったとしても
たたなかったとしても
「私に」同情するのはやめよう
と、決めた
:
職員室で少しだけ清先生と話をしてから
保健室にもどると
いつのまに入ったのか
園子がベッドに腰掛けている
ゼラチン質の何かを手で弄びながら
ぼうっとしている
それから私に気がつくと
妙にうつろな目で
あかちゃんてね
快と 不快しか
わからないんだって
でもね
アタシ
しってるんだ
おとなだって
快と 不快しか
わからないんだ
……
善悪も、すきも嫌いも
快、不快で
わけて
さけんで
押し付け合っている
それで
いらいらしていたんだけど
でもね
不快って
だいじだなって……
……
5月の空は
はれわたり、青い青い光の中
校庭からは歓声が聞こえる
自分がされたら嫌なことを
しないだけですんだら
どれだけ
良かっただろう
:
とくに
男子がひどいんです
女子はともかく
あれぐらいの年の子は
なにも制御がない
自分に気に入らないというだけで
わるいもの
自分が罰するべきものだと
思ってしまうのかも
しれません
はっきりとはいわないが
園子の顔をもって
男子たちが、
園子そのものが
悪であるとして
騒いでいるのは
なんとなく想像がついた
清先生はためいきをついた
ふ、と
聞いてみたかった
清先生、あなたは
園子の顔、
お好きですか?
どう思いますか?
きっと、清先生は
理性をもって、
ええ、と
いうでしょう
――おとなだって
快
不快しか
わからないんだ
――好悪
――善悪
――快不快しか
わからないんだ
――わからないのに
おしつけあい
さわいでいる
:
園子のいじめは
清先生の努力のかいもなく
時が経つにつれ
重く、静かに
ひどくなっていくようだった
そう、いじめって
ひどくなるのよね
……
その報告を聞き、
またおかえしに、
清先生に
園子の保健室での言動を
報告しながら
――彼女がくるようになってから
私は日誌をつけるようになった――
私は距離を置くようにしようと思う
ものごとは
車輪付きだから
わるいことも
よいことも
加速する
そくどがあがればあがるほど
止めにくくなる
限界にだけは
気をつけましょう、と
清先生といいあう
距離を徹底しておこう
自分の胸に刻むように
くりかえす
そうでないと
車輪がはじける前に
自分がはじけてしまう
なにより
気が付けないだろう
――限界に
どうして、こんなことに
話し合いながら
時折目の奥がぼおっとゆるむ
清先生の顔には
くっきりそう書いてあった
:
保健室のベッドで
園子がいう
友達がね
今思うと、友達じゃなかった
スパイだった
スパイがね
あいつが
私の顔、おかあさんが
小さいころに殴って
虐待したせいで
そうなったんだって
ふれまわってたみたい
ばかみたい
そうして、
顔半分を抑えていたハンカチを
力なく片手に持ちかえる
血がにじんでいる
私は彼女を見ながら
スパイなんているのね、と思う
それから園子がベッドにつっぷして
くっそたれ、と
小声で云う
くそったれ
:
7月
夏のすっきりした風と
奇麗な星空のなか
校長は、大きな笹を
三本たてた
生徒たちの手で飾り付けられ
願いを込めた短冊をその身にひからせ
誇らしげにそよいでいる
子どもたちは
その笹をいつまでも見つめ
誰が誰の願いだの
はしゃぎながら
帰ろうとしないので
先生たちも困り顔だった
園子の短冊やかざりだけが外された、と
園子がまた保健室に来た
人の願いがけがれるからだって、と
その顔を見ながら、確かにこの子は
保健室が必要なんだろう、と思った
だけど、ひとをいやせる薬って、
ないのよねとも
思った
快楽を覚える薬も
痛みをやわらげる薬もあるのに
癒せる特効薬って
いまだ、ないのよね
ベッドに寝かせてというから
いいよ、というと
彼女はもぐりこむ
夜は好き、くらいと気持ちいい
それから布団の中から
私に話す
美人だったら
いじめられずにすんだ?
だから正直に答える
美人な人も
いじめられていた
美男な人も
いじめられたいた
無難な人も、
たくましい人も、
ひょろりとした人も
頭のよい人も、悪い人も……
共通点は
あんまり、ないみたい
その時の調和に
なじめなかった人が
いじめられていたわ
……
少し黙ってから
園子がいう
……小中高ずっとだよ
……
私は何も答えられなくなる
チャイムが鳴り、
園子はベッドから這い出すようにおりる
制服を整え、
じゃ、また、と、
保健室の扉に向かう
相変わらず丸まっている
その背を見送ってから
振り返ると
ベッドに短冊があった
これをはずされたんだ
そう思って、
ひろいあげる
赤の折り紙に
震えるような細い字で
よっつのもじが書かれていた
ともだち
:
あのね
このあいだ
教室で、聖書のはなしをしたよ
私、へんだと
おもった
かみさまが
わけへだてりなく
ひとをあいし
そのままで 愛するというのなら
悪魔はどうなんだろう
なかよいことは
良いこと
なんじの隣人を愛せ
なかよくできない
できないひとは
失敗作なのかな
神様は
そのままで
ひとを
愛するというのに
好き嫌いをしていると
おもった
……私は
そのままでは
いられない
でもさ、なら
そのまま というのは
きっと なにか
私ではわからない
もっと素直な
正直な 誠実な
がんばってでも
ありのままになりなさい という
意味かもしれない
:
園子が学校をやめる、という話を
清先生から聞いた
やめるそうです
つらかったですしね
そういいながら、
彼は、安堵の表情を
わずかに、うかべていた
すべてを言い終わると、すぐに口を閉じ
その安堵よりもずっと深く、
どこかで何かが腐っているような
焦燥と疲れの表情を浮かべた
私は、まるで
飲まず食わずに走り続けた馬が
倒れる前のような顔だと思った
そのあと保健室にいったら
やっぱり園子はベッドの脇の椅子で
ゼラチン質の何かを手にもって
あそんでいる
ねぇ、それ、なに、というと
あのね、ぶよぶよボール
さわっていると
安心するんだ、と
こたえる
そういえば聞いたことなかった
園子がぽつりという
母さんがね、
おまえ、そのままじゃ
どうしても
ずっと、こうなってしまうから
整形してみるかい、
そうしたら
お前を見ただけでいじめる人は
いなくなる
それだけはいなくなる
どうしたい?
ってね
聞いてきたの
だから
園子が私の目をみつめる
私はすこしたじろぐ
ひとつひとつが
ずれて、ゆがんでいる
園子の顔
それでも目の色は
誰にもまけないほど
美しい
だから、整形をするかもしれない
とりあえず、
がっこう、かえるんだ
:
園子が去っていく背中は
広い校庭の中でも、
みょうに小さく見えた
最初に、彼女のその背から
中国のてんそくを
思い出したのと同じように
自分を恥じいる気持ちと
奇妙な怒りと不安に襲われた
彼女は大人になった時
いまこのときのことを
どう思い出すんだろう
どんなふうに
思い返し
何を思うんだろう
最初に決めたはずだ
救えなくても
救えても
役に立てても
立てなくても
あいだに
「自分」に
悲しむのだけは
やめようと
ふ、と
彼女の足にある靴が
学校の指定靴ではなく
紅い運動靴だったことに
気がつく
彼女の姿が校門を出てから
かぎつきの引き出しから
ノートを取りだす
園子の日誌
ぱらぱらとめくって
それでも、内容が
頭に入らない
途中のページで
園子の短冊が
ぽと、と
落ちた
挟んでいたんだっけ……
それをひろいあげ
見たとき
私は
動けなくなった
:
汝の隣人を愛せ
Series :
長編
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2012-05-13
13:53:53
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2012
> 園子
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たくさんさいている
あわくけむるような白
:
園子をはじめてみたとき
中国のてんそくをおもいだした
小さな靴で育った足
学校の制服に
無理やり自分をおしこめるに
彼女の背はまるまり
顔は、始終、影になるように
下を向いていた
その顔が上を向いた時
パーツがくるっている、とわかり
あ、あやういな
このこは
問題になるだろう、と
すぐに思った
中学にあがったばかりの
中坊たちは
おとなの思い
すこしはらはらとした
だいじょうぶだろう
ちゅうがくせいは
もう おとなだし、という
想いを無視し
すぐに、園子をつるしあげた
陰湿ないじめがはじまった
幼いころは
いじめよりも
見て見ぬふりをする先生の背に
言い知れない
不安を感じたものだけれど
いまになってわかる
まじめな大人ほど
純粋な悪欲をもつ
子供たちを前にすれば
つぶれがちなのだ……
見て見ぬふりが
できないというのは
じっさい、
刃をいれるということで
なんにでも「刃」として
己を投下する、というのは
大人でも――大人だから――
恐ろしい
会議をひらいて
ひとりひとりと話し合う
子供が言うまで待つ
親をよぶ
すべて
どういう結果にころぶか
わからない
園子の組の担当だった清先生は
――私は正直、私でなくて良かった、と思った――
40歳手前のそこそこの先生で
ひとまず園子の話を聞き
園子をいじめている
いちばん、中央にいる強いもの
――影響力のあるもの――に話を聞き
その周辺のもの
ひとりひとりから話を聞き
それから、園子に話を聞き
自分を真ん中に置いて
何度も何度も話を聞いた
それだけで疲れるのか
彼の眼の下のクマは
日に日に
濃く、青くなっていった
:
園子が私の部屋
――保健室にいりびたるようになるまで
そう時間はかからなかった
私は、先生ではない、という気楽さから
彼女を放っておくことにした
この学校に勤めてから
教えずにすむ、導かずにすむことの気楽さを
ありがたいものだと思うようになった
じっさい
教えないですむというのは
気楽だ
私はベッドの中で
しずかな寝息を立てている園子を見ながら
たとえば
私がこの子にかかわり
何かの役にたったとしても
たたなかったとしても
「私に」同情するのはやめよう
と、決めた
:
職員室で少しだけ清先生と話をしてから
保健室にもどると
いつのまに入ったのか
園子がベッドに腰掛けている
ゼラチン質の何かを手で弄びながら
ぼうっとしている
それから私に気がつくと
妙にうつろな目で
あかちゃんてね
快と 不快しか
わからないんだって
でもね
アタシ
しってるんだ
おとなだって
快と 不快しか
わからないんだ
……
善悪も、すきも嫌いも
快、不快で
わけて
さけんで
押し付け合っている
それで
いらいらしていたんだけど
でもね
不快って
だいじだなって……
……
5月の空は
はれわたり、青い青い光の中
校庭からは歓声が聞こえる
自分がされたら嫌なことを
しないだけですんだら
どれだけ
良かっただろう
:
とくに
男子がひどいんです
女子はともかく
あれぐらいの年の子は
なにも制御がない
自分に気に入らないというだけで
わるいもの
自分が罰するべきものだと
思ってしまうのかも
しれません
はっきりとはいわないが
園子の顔をもって
男子たちが、
園子そのものが
悪であるとして
騒いでいるのは
なんとなく想像がついた
清先生はためいきをついた
ふ、と
聞いてみたかった
清先生、あなたは
園子の顔、
お好きですか?
どう思いますか?
きっと、清先生は
理性をもって、
ええ、と
いうでしょう
――おとなだって
快
不快しか
わからないんだ
――好悪
――善悪
――快不快しか
わからないんだ
――わからないのに
おしつけあい
さわいでいる
:
園子のいじめは
清先生の努力のかいもなく
時が経つにつれ
重く、静かに
ひどくなっていくようだった
そう、いじめって
ひどくなるのよね
……
その報告を聞き、
またおかえしに、
清先生に
園子の保健室での言動を
報告しながら
――彼女がくるようになってから
私は日誌をつけるようになった――
私は距離を置くようにしようと思う
ものごとは
車輪付きだから
わるいことも
よいことも
加速する
そくどがあがればあがるほど
止めにくくなる
限界にだけは
気をつけましょう、と
清先生といいあう
距離を徹底しておこう
自分の胸に刻むように
くりかえす
そうでないと
車輪がはじける前に
自分がはじけてしまう
なにより
気が付けないだろう
――限界に
どうして、こんなことに
話し合いながら
時折目の奥がぼおっとゆるむ
清先生の顔には
くっきりそう書いてあった
:
保健室のベッドで
園子がいう
友達がね
今思うと、友達じゃなかった
スパイだった
スパイがね
あいつが
私の顔、おかあさんが
小さいころに殴って
虐待したせいで
そうなったんだって
ふれまわってたみたい
ばかみたい
そうして、
顔半分を抑えていたハンカチを
力なく片手に持ちかえる
血がにじんでいる
私は彼女を見ながら
スパイなんているのね、と思う
それから園子がベッドにつっぷして
くっそたれ、と
小声で云う
くそったれ
:
7月
夏のすっきりした風と
奇麗な星空のなか
校長は、大きな笹を
三本たてた
生徒たちの手で飾り付けられ
願いを込めた短冊をその身にひからせ
誇らしげにそよいでいる
子どもたちは
その笹をいつまでも見つめ
誰が誰の願いだの
はしゃぎながら
帰ろうとしないので
先生たちも困り顔だった
園子の短冊やかざりだけが外された、と
園子がまた保健室に来た
人の願いがけがれるからだって、と
その顔を見ながら、確かにこの子は
保健室が必要なんだろう、と思った
だけど、ひとをいやせる薬って、
ないのよねとも
思った
快楽を覚える薬も
痛みをやわらげる薬もあるのに
癒せる特効薬って
いまだ、ないのよね
ベッドに寝かせてというから
いいよ、というと
彼女はもぐりこむ
夜は好き、くらいと気持ちいい
それから布団の中から
私に話す
美人だったら
いじめられずにすんだ?
だから正直に答える
美人な人も
いじめられていた
美男な人も
いじめられたいた
無難な人も、
たくましい人も、
ひょろりとした人も
頭のよい人も、悪い人も……
共通点は
あんまり、ないみたい
その時の調和に
なじめなかった人が
いじめられていたわ
……
少し黙ってから
園子がいう
……小中高ずっとだよ
……
私は何も答えられなくなる
チャイムが鳴り、
園子はベッドから這い出すようにおりる
制服を整え、
じゃ、また、と、
保健室の扉に向かう
相変わらず丸まっている
その背を見送ってから
振り返ると
ベッドに短冊があった
これをはずされたんだ
そう思って、
ひろいあげる
赤の折り紙に
震えるような細い字で
よっつのもじが書かれていた
ともだち
:
あのね
このあいだ
教室で、聖書のはなしをしたよ
私、へんだと
おもった
かみさまが
わけへだてりなく
ひとをあいし
そのままで 愛するというのなら
悪魔はどうなんだろう
なかよいことは
良いこと
なんじの隣人を愛せ
なかよくできない
できないひとは
失敗作なのかな
神様は
そのままで
ひとを
愛するというのに
好き嫌いをしていると
おもった
……私は
そのままでは
いられない
でもさ、なら
そのまま というのは
きっと なにか
私ではわからない
もっと素直な
正直な 誠実な
がんばってでも
ありのままになりなさい という
意味かもしれない
:
園子が学校をやめる、という話を
清先生から聞いた
やめるそうです
つらかったですしね
そういいながら、
彼は、安堵の表情を
わずかに、うかべていた
すべてを言い終わると、すぐに口を閉じ
その安堵よりもずっと深く、
どこかで何かが腐っているような
焦燥と疲れの表情を浮かべた
私は、まるで
飲まず食わずに走り続けた馬が
倒れる前のような顔だと思った
そのあと保健室にいったら
やっぱり園子はベッドの脇の椅子で
ゼラチン質の何かを手にもって
あそんでいる
ねぇ、それ、なに、というと
あのね、ぶよぶよボール
さわっていると
安心するんだ、と
こたえる
そういえば聞いたことなかった
園子がぽつりという
母さんがね、
おまえ、そのままじゃ
どうしても
ずっと、こうなってしまうから
整形してみるかい、
そうしたら
お前を見ただけでいじめる人は
いなくなる
それだけはいなくなる
どうしたい?
ってね
聞いてきたの
だから
園子が私の目をみつめる
私はすこしたじろぐ
ひとつひとつが
ずれて、ゆがんでいる
園子の顔
それでも目の色は
誰にもまけないほど
美しい
だから、整形をするかもしれない
とりあえず、
がっこう、かえるんだ
:
園子が去っていく背中は
広い校庭の中でも、
みょうに小さく見えた
最初に、彼女のその背から
中国のてんそくを
思い出したのと同じように
自分を恥じいる気持ちと
奇妙な怒りと不安に襲われた
彼女は大人になった時
いまこのときのことを
どう思い出すんだろう
どんなふうに
思い返し
何を思うんだろう
最初に決めたはずだ
救えなくても
救えても
役に立てても
立てなくても
あいだに
「自分」に
悲しむのだけは
やめようと
ふ、と
彼女の足にある靴が
学校の指定靴ではなく
紅い運動靴だったことに
気がつく
彼女の姿が校門を出てから
かぎつきの引き出しから
ノートを取りだす
園子の日誌
ぱらぱらとめくって
それでも、内容が
頭に入らない
途中のページで
園子の短冊が
ぽと、と
落ちた
挟んでいたんだっけ……
それをひろいあげ
見たとき
私は
動けなくなった
:
汝の隣人を愛せ