赤いグミ

ふと、散歩までしようと
小銭入れを持ってサンダルをひっかけた
近所のコンビニで
醤油でも買おう

見上げたらいい月夜で
きれいな霧雲がながれている
どこの家の窓からか
小さなきれいな音楽が流れている
星のかけらをとかしたような音だ

サンダル音がぺとぺと響く
コンクリートは湿気を帯びて
真っ黒にそまり
きらきら光っている
街灯のやわらかな光
さざ、と風がなぐたんびに
木々がうごめいて、唄う

ここちよく
ひとけのない道
たまに鳥が
ちい、さいさい
ちい、さいさいとないている
青い影にしずみこんだ家家は
眠りにはまだはやいと
小さなにちじょうのおとを
かたんかたんとひびかせ
おとうさん、おちゃ
いえ、かれーらいす
不思議なように
ひとたちの声がいきかう

気持ちよくて
小声で唄っていながら
いつもは曲がらない角を曲がったら
一面に赤いグミをみのらせた
みずみずしい緑が広がった
甘酸っぱい香り
あかい実はひかひかとつぶつぶにひかり
ひとつ、ひとつ
宝石のようだ

グミのにおい
グミのにおい
しげしげみつめていたら
その下に白い鳥がいて
なにもいわずに
落ちて腐ったグミをついばんでいた

月の下に深く広がった葉
白い鳥の足
ふいに鳥は私を見て
金色の目をいちにかいとじて、ひらいた

ごきげんよう

たしかにいった

ごきげんよう

おじぎをしたら
すこし、おどろいたように
--おどろいたふりのように思えたーー
ぱたたたた、と
とびさっていった

小さな銀色の翼
その羽がこちらに舞い散る
月に光る
赤いグミのみ
2012-09-01 08:00:00