ちい

道路わきにたくさんの草があって
あいまあいまにつつましく
白い可憐な花が咲いていた

チイは履きなれない靴を
ひきずるようにして歩きながら
今日も思い悩んでいる

あれ、あれ
あれ、あれ
まるでアタマだけが
現実にはない
くらい迷路にはまってしまったように
延々と、おもいかえし
おもいかえし
それから、
わたし、このままでいいのかなぁ……、と思う


青緑の葉に
たくさんの水滴がついていて
ともすれば
たたん、と
その水滴が地面に落ちる

その葉の影に
子供の靴より
少し大きめの、茶色い蛙と
紅い花、やわかく枯れていく花びらを
下半身に巻いたこびとがいて
うたっている

―― あい あいな あい

まるで録音した声を
とてもはやく再生したような声で
子はささやく

蛙のおうさまは
その子のとなりにいて
目をじっとつむりながら
ささやき声を聞いている

―― 花は まだですね

―― 花はね
月あかりに照らされるたんび
月の光をすいとって
その身にためておくんですよ

蛙の王さまを
見上げながら
まるでつぶやくようにいって

―― おばあさんが
教えてくれたのです
だからわたし
知っているのですよ

チイは思い悩んでいたので
そういった奇妙な現実には
気がつかないまま
とぼとぼと
歩き続ける

おや、あれは
チイさんでは
ないですか

蛙の王さまが言う

ああ、ほんとうだ
この先の
デパートの右の
もうひとつ行った先にある
アパートの301号の
チイさんですね

蛙の王さまが
ぐえげうげうげ、と鳴く
悩まれているようですね

ほんとうに

こびとがこたえる

それから少し考えて
こびとは、えい、と
チイさんの肩にとても速く駆け上り
その小さなやわらかな耳たぶに
顔をつけるようにしてささやく

あしもとに
どうして花が
咲くと思います
あなたが
おちこんだとき
めにはいって
その色で
慰たいからですよ

それからもう少し考えて
また話す

メールがきますよ
見てごらんなさい
みてごらんなさい
世界は
あなたを
好いているんですよ

急にチイの携帯がなり
え、え、とつぶやきながら
とりだして画面を見ると
確かに親しい友達からのメール
タイトルが「マンモス」で
中身

……チイ
マンモスって
絶滅したとき
にんげんって
困らなかったのかね
食いがいのある
あの肉がたえて
それから何を食べたんでしょう!
にんげんって
不思議よね!!!

それから写真
マンモスではないけれど
ゾウのかぶりものをきて
無表情で、まっすぐこちらを見た
彼女の自分撮りの写真
ぶふ、と
チイはふきだす
それから電話をかける

あんたなにしてんのよお
ひるまからぁ
まんもすのきもちになるぅ?
ええ? なに? やきにく?
いいねえ
うん ネギ買ってく
ネギだけでいい?

……
いつの間にかもどっていた
こびとと蛙の王さまは
少しだけうれしそうに
顔をあげたチイさんを見守る

蛙の王さまがいう

だいじょうぶだよ
2012-05-10 14:56:04